読書の勧め

「坂の上の雲」⑰日本海海戦

連合艦隊とロシア・バルチック艦隊との決戦・日本海海戦は明治38年5月27日の哨戒艦「信濃丸」の五島列島沖での「敵艦隊203地点(この付近に設定されたNo)に見ゆ。時に午前4時45分」の電信に始まる。 この電信を受信した三等巡洋艦「和泉」は午前6…

「木曽義仲」

下出積與(しもでせきよ)著「木曽義仲」吉川弘文館刊を読み終えた。著者は大学教授などを歴任した日本史の専門家で1998年に亡くなられている。 源頼朝や義経など源氏の正統と目される人物についての研究書は多いが木曽義仲(源義仲)に関しては非常に少なく…

最も記憶に残る本のなかの文章

5月13日のこのブログで文藝春秋の記事「私の人生を決めた本」に関連して私の記憶にある本のことを書いた。 その時今まで読んできたものを思い出すなかで今も記憶に残り自分の糧にもなった文章もいくつか浮かんできたが、そのなかの一番はやはりこれだと思…

「俳禅一味の山頭火」

「分け入っても分け入っても青い山」「うしろすがたのしぐれてゆくか」など自由律ながら妙に心に残る句を詠んだ種田山頭火は私と同じ山口県の出身である。 先日このブログで金子みすゞについて触れた際、近代以降の山口県の文人三人として金子みすゞ、中原中…

「坂の上の雲」⑯奉天会戦

日露戦争は基本的に朝鮮半島や満州・中国東北部へのロシアの脅威に日本が存亡の危機感を感じたところから発生したもので、明治33年(1900)の北清事変(義和団事件)以来すでにロシアは大軍を満州に駐留させており、戦争は満州での陸戦で決着せざるを得な…

「ロシアの歴史を知るための50章」

昨今のロシアが関わるニュースのこともあり、たまたま図書館で見つけた下斗米伸夫(しもとまいのぶお)編著「ロシアの歴史を知るための50章」明石書店刊を読み進めている。 編著者はロシア政治やソ連史の専門家で、時代別課題別の各章にそれぞれの専門家が分…

「坂の上の雲」⑮大諜報(だいちょうほう)

「坂の上の雲」の読み直しで全6巻のうちの第5巻内にある「大諜報」という章に差し掛かっている。 諜報とはスパイ活動のことであり、わざわざ大と付けているのは日露戦争の決着に多大な影響を与えたことを意味している。 この章は日露戦争の裏で帝政ロシア…

「私の人生を決めた本」

月刊誌・文藝春秋五月号の特集のひとつが「私の人生を決めた本」として掲載されており、副題として「読書家81人による史上最強のブックガイド」が付いている。 政治家・学者・芸能人・文筆家・経営者等々が自分の読書歴のなかで画期となった本について書い…

「坂の上の雲」⑭バルチック艦隊の大航海

日露戦争の勃発後ロシアは北欧バルト海を根拠地にするバルチック艦隊をアジアに回航して海上戦力を充実し、日本と大陸との交通を遮断して大陸の日本軍を孤立させようとした。 当時は日英同盟が機能しており、スエズ運河を始め世界の主要港湾都市は英国の管理…

「謙信と信玄」

録画していたNHKの歴史番組・歴史探偵「武田信玄 最強の秘密」を観ることと、図書館で借りてきた井上鋭夫(いのうえとしお)著「謙信と信玄」吉川弘文館刊を読むのがたまたま偶然に重なってしまった。 歴史探偵の方は比較的シンプルな分析で、武田軍の強さのカ…

「松本清張と日本の黒い霧 」

NHKBSで放送された「松本清張と日本の黒い霧 未解決ミステリー」を3月25日に録画したままであったが1ヶ月ぶりにようやく観ることが出来た。 松本清張の代表的作品のひとつ「日本の黒い霧」をもとにして特にその中の「下山国鉄総裁謀殺論」を取り上げ戦後…

「厚狭毛利家代官所日記」の終わりと「山陽町史」

このブログを始めたきっかけは身辺雑記と共に故郷・山口県厚狭の歴史を書いておこうと思ったことにある。 途中、江戸時代厚狭一円を領していた、萩毛利本家の一門である厚狭毛利家の民政記録である「厚狭毛利家代官所日記」を入手し、これは厚狭の歴史を知る…

「坂の上の雲」⑬ロシアの弱点

明治37年2月6日日本はロシアに対し国交断絶を通告、日露戦争の勃発である。この時点で日本の国力、軍事力はロシアに比して隔絶しており日本の勝利を予測したものは、明治陸軍の教師役になったドイツ人メッケルなどごく少数で世界の大勢はロシアの勝利を…

金子みすゞと山口県の風土

先日4月28日のこのブログで書いた「金子みすゞ・魂の詩人」には著名な二人の方が金子みすゞとみすゞのふるさと山口県の風土の関係について述べられている。 ①児童文学家・矢崎節夫さんは埋もれていた金子みすゞを世に出した人として有名だが、その矢崎さ…

「坂の上の雲」⑬技術者の日露戦争

日露戦争は国力や物量が何倍もある国に戦いを挑み、色々な条件幸運などが重なり辛うじて勝ちを制した戦いであった。ここではその勝ちに向けて明治の技術者が果たした役割の中から二つの例を書いておきたい。 ①下瀬火薬 海軍省兵器製造所に勤務して砲弾の炸薬…

「金子みすゞ・魂の詩人」

NHKEテレに「100分de名著」という番組があり、先日「金子みすゞ詩集」が本来25分刻みで4回に分けたものを100分連続で一挙に再放送された。 この放送がされていることを中学同級生のグループLINEで連絡があり、放送後も同郷の詩人として話が盛り上がっ…

「坂の上の雲」⑫遼東半島と旅順

明治のまだ世界が帝国主義の論理で動いていた時代、日本は中国・清(しん)と戦い遼東半島、台湾、澎湖諸島を獲得した。 満州(中国東北部)を狙っていたロシアは直後に独・仏と語らい遼東半島の放棄を迫る、三国干渉である。国力の不足を自覚していた日本はやむ…

「陥穽(かんせい) 陸奥宗光(むつむねみつ)の青春」

3月から始まった日経新聞に連載中の作家・辻原登さんの小説「陥穽 陸奥宗光の青春」を毎日の日課にして楽しみに読んでいる。 陸奥宗光は日本外交の草分け時代、外務大臣として不平等条約改正や日清戦争対応に尽力し「陸奥外交」の名前を残した明治の外交官…

「坂の上の雲」⑪超弩(ド)級

3月28日「坂の上の雲」⑩の続き。 超ド級のホームラン、超弩級のスペクタクル映画、などと今までの常識を超えたようなことを形容して使われる超ド級という言葉がある。 日本語にひどくびっくりさせることを表現する「度肝を抜く」というよく似た表現がある…

「港町巡礼・海洋国家日本の近代」

稲吉晃著「港町巡礼・海洋国家日本の近代」吉田書店刊を読み終えた。 著者は人文社会科学系の研究者で、この本は海外との窓口が港に限定された近代、日本の港が開かれた1850年代から海を越える人の移動手段が船舶から飛行機へと転換し、コンテナの登場に…

「抗日中国の起源・五四運動と日本」

武藤秀太郎著「抗日中国の起源・五四運動と日本」筑摩書房(筑摩選書)刊を読み終えた。 現代中国に繋がる歴史的事件として天安門広場の記念碑に刻まれているのが、古い順に、・アヘン戦争の起点になった林則徐がイギリスのアヘンを破棄する行動、・太平天国の…

「わたしの芭蕉」

加賀乙彦著「わたしの芭蕉」講談社刊 を読み終えた。 俳句をかじり始めて八ヵ月、一向に進歩が感じられない中で何か得ることが出来るものがないか悩んでいるが、たまたま図書館で俳句の本棚を見ていると旧知の小説家が書いた芭蕉の本が目について表紙の絵に…

「図書館への切なるお願い」

施設の図書室に置いてある月刊誌・文藝春秋4月号に歴史小説分野での直木賞作家・今村翔吾さんが「図書館への切なるお願い」と題する文章を寄稿されている。 その要旨は以下のような事と思われる。 『出版不況と言われる昨今の状況の中で、話題となった作品…

「苗字の歴史」

豊田武著「苗字の歴史」吉川弘文館刊を読み終えた。 この本は日本中世史を研究する著者が苗字(名字)の起こりからその発展する歴史や色々な名字の由来を地方豪族や武士団の成長等とも絡めて論じたものである。 あまりに範囲が広いのでここでは私の個人的興味…

「業(ごう)の花びら~宮沢賢治 父と子の秘史」

NHKBSプレミアムで放送された番組「業の花びら~宮沢賢治 父と子の秘史~」を録画していたがようやく観ることが出来た。 宮沢賢治といえば誰でも知っている詩人で童話作家だが、私の好きな作品は、学校でも習ったことがある詩、「永訣の朝」「雨ニモマケズ」…

神戸の歴史④応仁の乱と防長の雄・大内氏

4月6日の続き 西国から上って来る軍勢が兵庫神戸で戦うことになるケースの最後は私の郷里にも関係する大内氏の「応仁の乱」にまつわる戦いである。 室町三代将軍・足利義満に始まる勘合貿易・対明(みん)貿易は「応仁の乱」当時まで兵庫湊が中心であった。 …

「人生がラクになる数学のお話43」

柳谷晃著 「人生がラクになる数学のお話43」文芸社刊 を読み終えた。 数学者である著者は、我々が生きている世界で自然現象などの偶然の事象によって引き起こされる被害や恵みに対し、その恵みを最大限に享受し被害を最小限にするための道具が数学や物理で…

『「司馬遼太郎」で学ぶ日本史』

磯田道史(いそだみちふみ)著『「司馬遼太郎」で学ぶ日本史』NHK出版新書 を読み終えた。 最近TVの歴史番組などで頻繁に顔を見かける歴史家・磯田道史氏が、司馬遼太郎さんの作品から体系的に戦国時代から昭和までの日本史を学べるように書いた本である。一般…

「鉄砲とその時代」

三鬼清一郎著「鉄砲とその時代」吉川弘文館 刊を読み終えた。題名から見ると鉄砲伝来からその活用や影響などについての研究書と思われ私もそのつもりで図書館から借り出した。 実際は鉄砲やキリスト教の伝来が社会に大きな影響を与えた時代すなわち、織田信…

「神戸の歴史」③湊川(みなとがわ)の合戦

3月30日の続き 西国からの軍と都を守る側との間で神戸の中心部が戦場になった歴史にはもうひとつ有名な戦いがあり、それが楠木正成が戦死した湊川の合戦である。 後醍醐天皇が親政を目指して各地の豪族を糾合し、元弘3年(1333)鎌倉幕府を倒した建武…