「謙信と信玄」

録画していたNHKの歴史番組・歴史探偵「武田信玄 最強の秘密」を観ることと、図書館で借りてきた井上鋭夫(いのうえとしお)著「謙信と信玄」吉川弘文館刊を読むのがたまたま偶然に重なってしまった。

歴史探偵の方は比較的シンプルな分析で、武田軍の強さのカギを軍事面に絞って捉え、その軍隊組織が部隊長級に目的意識と権限を与え現場の自由裁量を重んじる運用、すなわち現代で言う「ミッション・コマンド」であることを強調している。

一方「謙信と信玄」の方は戦国の両雄の違いや意外と多くある共通性など、家系と生い立ち、軍事力の構成、農村と都市の支配状況、経済政策、宗教統制、両者の軍事衝突、晩年両者が志向した西上(上京)の挫折などを多角的に分析している。

戦国の両雄・上杉謙信武田信玄は後世に書かれた軍記物、「甲陽軍鑑」や「北越軍記」などの影響から両者の川中島での一騎討ちなど真偽誇張された話が多く流布しているが、この本は今は亡き歴史学者の著者が史料をもとに冷静にその実態に迫ろうとしているものである。

それだけに中身が濃く、1日あれば読み終えるはずが丸2日かかってしまった。

この本が収録されている吉川弘文館の「読みなおす日本史」シリーズは<既刊の日本史関係書のなかから、研究の進展に今も寄与し続けているとともに、現在も広く読者に訴える力を有している良書を精選し順次定期的に刊行する>と刊行のことばに書かれている。

ことばの通りこの本はもともと1964年に初めて世に出されたものらしいが、読み終わって全く古さを感じさせない理詰めで納得の書であることがよくわかった。

著者は「結び」のなかで、謙信・信玄の天下統一を果たす実力について、共に総合力として見た場合は不足であると見ており『要するに謙信も信玄も、勇猛にして智略に長けた地方的名将というところにその真価があるのであり、父祖の築き上げた地盤を維持し、飛躍的拡大をなした点に、卓越した手腕を認むべきであると思うのである』と書かれていて共感するところ大である。

 

【句碑眺め非才を嘆く夏の山】

 

🔘健康公園、ヒメユズリハ