読書の勧め

「昭和の怪物 七つの謎」

保阪正康(ほさかまさやす)著「昭和の怪物 七つの謎」講談社現代新書 を読み終えた。著者の保阪正康さんはノンフィクション作家だが昭和史研究家の側面も持たれ先の戦争に関わる著作も多く何れも説得力がある。 題名はかなり奇をてらったように見えるが内容は…

司馬遼太郎さんの随筆③「芸備(げいび)の道・安芸(あき)吉田」

司馬遼太郎さんの大作「街道をゆく」の第六巻に「芸備の道」がある。ここでの芸備とは旧国名の安芸国(あきのくに)と備後国(びんごのくに)を指し現在の広島県に当たる。 そのなかで司馬さんは毛利元就を生んだ高田郡吉田町(現在安芸高田市)へ向かうのだが、近…

「語り継ぐこの国のかたち」②

7月21日の続き この本の内容で「なぜ無謀とも言える太平洋戦争に突き進んだか」に繋がる部分での二番目の内容。 ②昭和の誤りの遠因は日露戦争にある。 日露戦争の勝ちというのは(海軍の日本海海戦は完全勝利だが)陸戦の勝敗では本当の勝ちではない。あ…

『東アジアからみた「大化の改新」』

仁藤敦史著『東アジアからみた「大化の改新」』吉川弘文館 刊(歴史文化ライブラリー555)を読み終えた。著者は日本史の専門家で特に古代史について色々な著作がある。 よく知られているよう「大化の改新」とは飛鳥時代皇極天皇4年(645)中大兄皇子、中…

「語り継ぐこの国のかたち」①

半藤一利著「語り継ぐこの国のかたち」大和書房 刊を読み終えた。 半藤さんは「文藝春秋」の編集長を勤めたジャーナリスト出身だが、むしろ昭和史研究家や「ノモンハンの夏」「日本のいちばん長い日」などのノンフィクション作家としての顔が著名かも知れな…

「戦国武将 三澤氏物語」③たたら製鉄

たたら製鉄は砂鉄と木炭を原料にして粘土製の炉のなかで高温燃焼させ鉄を取り出すもので、古墳時代には大陸から日本に伝来していたといわれ、近代初期までは盛んに行われていた。たたらとは炉に空気を強制的に送り込む大型の「ふいご」のことである。 ジブリ…

「新街道をゆく―奈良散歩―」

「街道をゆく」は作家・司馬遼太郎さんの代表作で全43巻の大作である。NHKではこれを1990年代に一度TV化して放送したことがある。 今回、令和版として「新街道をゆく」と名付けて放送を始め、第一回が「鎌倉殿の十三人」のこともあり関東武者のふるさ…

「海軍戦争検討会議記録・太平洋戦争開戦の経緯」②

7月16日の続き この本のあとがきを書いた海軍史研究家・戸髙一成氏が「決定的資料!」という通り海軍からみた太平洋戦争の裏面がかなり表に出てくる重たい資料だが、私なりに重要なポイントを抽出してみる。 ①海軍の主流は日・独・伊三国同盟や日米開戦に…

「海軍戦争検討会議記録・太平洋戦争開戦の経緯」①

新名丈夫(しんみょうたけお)編「海軍戦争検討会議記録・太平洋戦争開戦の経緯」角川新書 を読み終えた。 先日垂水の街に出掛けた際NHK・Eテレ「NHK俳句」のテキストを買いに書店に寄ったところたまたま目について衝動的に買ってしまった。 一度蔵書を処分し…

下関攘夷戦争と「陥穽(かんせい)」

孝明天皇の強い意向を受け徳川幕府十四代将軍・家茂は外国船を打ち払う攘夷実行期日を文久3年(1863)5月10日と奉答、布告した。 当時これを実行出来るとは誰も思ってないなか、唯一長州藩では当日関門海峡を通過する外国船を砲撃、下関攘夷戦争の始ま…

戦国武将 三澤氏物語②三澤氏の誕生

7月7日の続き 三澤氏の出自は信濃国(しなののくに・長野県)で、木曽義仲をルーツとする説もあるらしいが、現在では同国伊那谷(いなだに)に居住していた清和源氏を祖とする飯島氏とされている。 承久(じょうきゅう)3年(1221)後鳥羽上皇と鎌倉幕府・北…

「この世を生き切る醍醐味」

樹木希林「この世を生き切る醍醐味」朝日新聞出版刊 を読み終えた。 この本は女優・樹木希林さんがガンで亡くなられる半年前、3日間7時間に及ぶ朝日新聞論説委員が聞き手のインタビューを取りまとめたもので巻末に一人娘の内田也哉子さんの葬儀後のタイミ…

「足利尊氏」

森 茂暁(もり しげあき)著「足利尊氏」角川選書 を読み終えた。 足利尊氏は毀誉褒貶の激しい典型的な人物である。鎌倉幕府を倒した最大の功労者で室町幕府の創始者でもある。 しかし後醍醐天皇に呼応して鎌倉幕府を滅ぼした後、後醍醐天皇と袂を別ち北朝を立…

「道づれは好奇心」

澤地久枝著「道づれは好奇心」講談社 刊を読み終えた。先日このブログに書いたNHKのドキュメンタリー番組「ミッドウエー海戦 3418人の命を悼む」以来知らず知らずのうちに澤地久枝、安野光雅コンビに私自身に縁が出来たらしく偶然手に取ったこの本の装幀…

「恋・酒・放浪の山頭火」

石寒太(いしかんた)著「恋・酒・放浪の山頭火」徳間書店 刊を読み終えた。 よく知られているように山頭火は山口県出身の俳人で俳句の初心者である私にとっては同郷の大先輩であり以前にも関連する本でこのブログに書いたことがある。 山頭火の酒と放浪につい…

「山名宗全と細川勝元」

小川信(おがわまこと)著「山名宗全と細川勝元」吉川弘文館刊を読み終えた。 この二人の人名を聞いてピンとこなくても「応仁の乱」の対立した東西両軍の総大将と言えば歴史の教科書には必ず出てくるので思い出す人もいるはずである。 この本はその総大将二人…

長い槍の話

古来武将が戦いに勝つことを目指す場合色々なアプローチの仕方があることを歴史が教えているが、兵に持たせる武器をより効果的なものに変えていくのもそのひとつである。 映画「アレキサンダー大王」を観たのでこの際塩野七生さんのアレクサンドロスを読み直…

「昭和史をさぐる」

伊藤隆著「昭和史をさぐる」吉川弘文館刊を読み終えた。 著者は日本近現代政治史が専門の歴史学者である。この本は昭和初期の政党政治の時代から、満州事変、五・一五事件、二・二六事件、日中戦争を経て日米開戦、敗戦という昭和の道程を色々な史料に基づい…

「会えてよかった」

安野光雅(あんのみつまさ)著「会えてよかった」朝日新聞出版 刊を読み終えた。 著者の安野さんは独特な一度見たら忘れない画風で「ふしぎなえ」など多数の絵本などを発表、私も娘や孫が幼い頃買い与えた記憶があり、自ら装幀されたこの本の表紙の絵も面白い…

寺島実郎さんと悪人正機説(あくにんしょうきせつ)

寺島実郎さんと言えば日本総合研究所というシンクタンクの会長で大学教授を始め各種の公職を歴任されている政治、経済、国際関係にまたがる論客である。 私は日曜朝の報道番組「サンデーモーニング」は必ず録画して夜に観ることを習慣にしているが、そこに不…

「ミッドウェー海戦 3418人の命を悼む」

ミッドウェー海戦は今から80年以上前の昭和17年(1942)6月、太平洋戦争中の日本海軍とアメリカ合衆国太平洋艦隊の主力機動部隊(空母艦隊)が、アメリカ本土と日本との太平洋中間地点にあるミッドウェー島を巡って激突した戦いである。 1941年12…

「源義経の合戦と戦略・その伝説と実像」

菱沼一憲著「源義経の合戦と戦略・その伝説と実像」角川選書を読み終えた。 この本は今から約840年前に活躍した日本史上のヒーロー・源義経について史料や物語を丹念に追究し軍事面と政治面双方から伝説を廃して実像により近付こうとする試みでありその成…

司馬遼太郎さんの随筆①毛利の秘密儀式

司馬遼太郎さんが書かれた随筆を読み返していくと懐かしく面白いものに色々と突き当たるがこれもそのひとつである。 「毛利の秘密儀式」と題したそれは昭和39年の読売新聞に掲載されたもので、毛利家が関ヶ原の戦いで戦わずして負け中国地方の太守から周防…

「夏井いつきの日々是「肯」日(ひびこれこうじつ)」

民放のプレバトやNHK俳句でその辛口のキャラクターが人気の俳人・夏井いつきさんの「日々是「肯」日」を読み終えた。 この本は春・夏・秋・冬・新年の歳時記に合わせた五季ごとに、俳句、文章、写真で綴られた作品で、そのまえがきのなかで作者は、 『そんな…

「上皇の日本史」②ふるさとの領主・熊谷氏の所領争い

6月11日の続き、 日本特有の制度であった天皇を退位した上皇が行う「院政」のあれこれを解き起こす「上皇の日本史」では、史料を読み解いてその政治の内容や判断が比較的お粗末なもので上皇の政治の限界が見えていることを指摘している。 このことを裏付…

「上皇の日本史」①地位が先か、人が先か

本郷和人著「上皇の日本史」中公新書ラクレ刊 を読み進めている。 この本の「まえがき」の一部、「地位が先か、人が先か」という章で上皇という日本にしかない地位に関連して、日本特有の地位と人との関わりを論じているのが目から鱗で、ここに書いておくこ…

新選組と長州

このブログを中断していた間、色々な本を読んでいたが、司馬遼太郎さんの新選組小説「燃えよ剣」「新選組血風録」もこの間に読み返した。 幕末を駆け抜けた剣客集団・新選組の行動を振り返って見ると今さらながらではあるが、私のふるさと長州との戦いの歴史…

「出雲尼子(あまご)一族」

米原正義著「出雲尼子一族」吉川弘文館刊を読み終えた。 出雲国(いずものくに・島根県)月山・富田城(がっさんとだじょう)を本拠にして中国地方に覇をとなえ、大内氏や毛利氏と存亡をかけて戦国時代を争った尼子氏を研究追跡した書である。 毛利元就の生涯か…

淡路島と「俳句を愛するならば」のことなど

一昨日、昨日と用事があり娘がこちら神戸に来て、ついでに淡路島へ三人で一泊旅行に出かけてきた。 用事を済ませたあと、車で明石海峡大橋経由、洲本温泉旅館・ホテルニューアワジで一泊、翌日同じ淡路島にある「淡路ファームパーク・イングランドの丘」で花…

「歴史をうがつ眼」

推理小説作家・松本清張さんの歴史関係の講演や対談を文章化した「歴史をうがつ眼」中央公論新社刊を読み終えた。 「うがつ・穿つ」とは辞書を引くと(穴)をあける。掘る。突き抜けて進む。といった意味で松本清張さんらしい表現のように思われる。 内容は…