「ミッドウェー海戦 3418人の命を悼む」

ミッドウェー海戦は今から80年以上前の昭和17年(1942)6月、太平洋戦争中の日本海軍とアメリカ合衆国太平洋艦隊の主力機動部隊(空母艦隊)が、アメリカ本土と日本との太平洋中間地点にあるミッドウェー島を巡って激突した戦いである。

1941年12月の真珠湾攻撃以来優勢を保っていた日本海軍はこの戦いで主力空母4隻を失う(米国は空母1隻)大敗を喫し戦局の転換点になった。

この戦いは日本海軍が積極的に企図し、米国主力艦隊をおびき出して撃滅し戦意を喪失させ早期講和に持ち込む目論見があったとされるが、この結果から早期講和の目は完全に無くなり日本は長く苦しい敗戦への道のりを歩むことになる。

私は若い頃からこの戦いを知りたいと思い色々なことを学んだが作戦計画の良し悪し、情報戦の優劣、指揮官の判断、運不運、など非常に学ぶべきことの多い戦いである。

今回NHKEテレ特集として放送された「ミッドウェー海戦 3418人の命を悼む」は今まで得てきたこの海戦に対する知識とは全く別の視点からみた記録である。

ノンフィクション作家・澤地久枝さんは二・二六事件など昭和史に題材を得たノンフィクションを多く世に問い、その綿密な調査に基づく作品群は極めて評価が高く私の尊敬する作家の一人である。

番組はその代表作とも言えるミッドウェー海戦に題材を得て菊池寛賞を受賞した「記録 ミッドウェー海戦」「滄海(うみ)よ眠れ」をベースに、92歳になる澤地久枝さん本人やその著作に登場した海戦の戦死者の遺族、生き残りなどを訪ね兵士やその家族からみたミッドウェー海戦に迫ろうとするものである。

表題にある3418人とは日本軍3056人米軍362人のこの海戦に於ける戦死者合計で、この名簿を澤地さんは独力で作成したとのことである。

例えばこの戦死者名簿の正確さは米国研究者からも高く評価され、米国の公式記録より55人分多くなっているそうでその努力には敬服してしまう。

以前からこの海戦に興味があった私は、今でも日本側で沈んだ空母4隻は「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」、米国の沈んだ空母は「ヨークタウン」だと記憶しているがこの海戦の戦死者が計3418人だとは全く知らなかった。

一般に歴史を振り返る場合全体を大きく捉え、その時のリーダー目線でその事象を分析することが多いが、澤地さんは全く逆の視点で、この海戦に従軍した人やその関係者一人一人と向き合い、そこからこの海戦を分析しようと試みられているように思われる。

その試みは反戦という意味でも成功し、また個人の証言を丹念に拾い重ねることで当時の日本軍や指揮官の判断ミス、更には米軍捕虜を処刑した残虐性をあぶり出すことにも繋がっている。

60分を2週連続の長い番組だが得難いものを見せてもらった気がしている。

●番組のなかでの心に残る澤地さんの言葉

「公式戦史などにも正確な死者の記録が残されていないことに怒りを感じて始めた仕事で、大仕事になると思ったが怒りがあったので出来た。」

「若い人に死んでいった人たちがどういう人生を生きてきたのかどういう運命にさらされたのかもっと知って欲しい。」

「組織というものは不都合なマイナス面を隠すため知恵をめぐらせ一枚岩になる」

 

【五月闇霧笛と風が相呼びて】

 

🔘施設の庭カリブラコアと思われる。