「昭和の怪物 七つの謎」

保阪正康(ほさかまさやす)著「昭和の怪物 七つの謎」講談社現代新書 を読み終えた。著者の保阪正康さんはノンフィクション作家だが昭和史研究家の側面も持たれ先の戦争に関わる著作も多く何れも説得力がある。

題名はかなり奇をてらったように見えるが内容は綿密な取材に裏打ちされ、取材元も明らかにされている。また曖昧なことや推測による部分は都度はっきりその事が書かれており、信頼性の高い内容を感じさせる。

東條英機犬養毅吉田茂などの人物と行動が取りあげられているが私が最も興味を覚えたのは石原莞爾について語った章であり新しく知り得た収穫も多かった

石原莞爾(いしわらかんじ)

陸軍軍人であり、関東軍参謀時代に柳条湖事件に端を発した満州事変を主導した。しかしその後の日中戦争、太平洋戦争には一貫して反対、東條英機とは決定的に対立して開戦前陸軍中将で予備役に編入

著者は石原という人物について、戦後軍人のなかで著作集が刊行されているのはこの人だけで「特別な人」と位置付けている。

さらに軍人に託された倫理より自分には歴史や時代によって託された生き方があるはずと自らを捉え、能動的に自らの生きる空間で動き、軍人の殻を破って軍事主導下の怪物的軍人たろうとする強い意志が読みとれる。と書いている。

私が殊更興味を持つのは、石原莞爾は自ら謀略計画を主導して満州事変から満州国建国を成し遂げながら、以後の支那事変(日中戦争)や太平洋戦争に一貫して反対の立場を貫いたことである。

基本的に中国が独立自存することを尊重しており日本が万里の長城の内側に進出することは日中両国にとって抜き差しならない関係に陥ることを予測していた。

私は以前にも書いたように太平洋戦争開戦に至る、ポイント・オブ・ノ・ーリターンもはや引き返せない時点は日中戦争と思っているのだが、それは万里の長城の外側、満州国までであれば、多少楽観的ながら当時の国際世論や、中国国民感情ともに妥協の余地があったと考えているからに他ならない。

しかし中国本土と言うべき万里の長城線内側になると各国の利権や国際世論、更には中国人の国民感情に正面からぶつかることになり、現在のウクライナ国民感情と全く同じで領土奪還、相手の撤兵まで戦うという感情を呼び起こし、全く妥協の余地が無くなってしまい、云わば自ら退路を絶ってしまった。

この点石原莞爾の考えに共鳴出来る部分がある。

🔘実はこの本のなかにもう一人毀誉褒貶(きよほうへん)の激しいとても興味ある人物・瀬島龍三(せじまりゅうぞう)のことが書かれているが又の機会に譲ることにする。

🔘一日一句

 

タンカーが夏の海峡塞ぎ来る

 

🔘介護棟の庭、ムラサキクンシランに蜂(?)が蜜を吸いに来ている。