「港町巡礼・海洋国家日本の近代」

稲吉晃著「港町巡礼・海洋国家日本の近代」吉田書店刊を読み終えた。

著者は人文社会科学系の研究者で、この本は海外との窓口が港に限定された近代、日本の港が開かれた1850年代から海を越える人の移動手段が船舶から飛行機へと転換し、コンテナの登場により港そのものに変化が生じる1960年代までの間の各地の港町を巡ることで日本の近代を描くのを目的としている。

ここに取りあげられた日本の代表的な15の港町各々についてその港にふさわしいテーマを挙げてその切り口から近代の政治外交と地域社会の相互作用を描こうと試みており、例えば今住んでいる神戸は「故郷を離れる」というテーマで海外への移民を取り上げ、広島は「軍隊と暮らす」として軍都・軍港としての歴史を追いかけている。

全ての港を取り上げる訳にはいかないので私の故郷に近く馴染みの山口県下関について少し触れると「技術が発達する」というテーマで水産業の発展を見つめている。

現在日本の水産業売上高1位2位は「マルハニチロ」と「日本水産ニッスイ」であるが、これらは何れも下関を発祥とする林兼商店(大洋漁業)田村汽船(日本水産)一井組(日魯漁業)などにルーツがある。

彼らが競い合うことで、汽船トロール漁業・底引き網漁業、北洋漁業、母船式漁業(蟹工船など)、捕鯨などを通じて技術が発達、漁業の大規模化企業化が進むことになる。

海は次第に各国が利権を競う場所となり漁港はそのための根拠地となり現代に至っている。

元々この本は図書館の郷土本(神戸市)のコーナーにあり神戸港について主に書かれてあるのかと思ったがケガの功名で全国の港を知ることが出来た。

 

【須磨朧(おぼろ)源平武者の涙雨】

 

🔘健康公園アラカシの花、少し不気味に垂れ下がる。