歴史の彼方から

「新街道をゆく―奈良散歩―」

「街道をゆく」は作家・司馬遼太郎さんの代表作で全43巻の大作である。NHKではこれを1990年代に一度TV化して放送したことがある。 今回、令和版として「新街道をゆく」と名付けて放送を始め、第一回が「鎌倉殿の十三人」のこともあり関東武者のふるさ…

「海軍戦争検討会議記録・太平洋戦争開戦の経緯」②

7月16日の続き この本のあとがきを書いた海軍史研究家・戸髙一成氏が「決定的資料!」という通り海軍からみた太平洋戦争の裏面がかなり表に出てくる重たい資料だが、私なりに重要なポイントを抽出してみる。 ①海軍の主流は日・独・伊三国同盟や日米開戦に…

「海軍戦争検討会議記録・太平洋戦争開戦の経緯」①

新名丈夫(しんみょうたけお)編「海軍戦争検討会議記録・太平洋戦争開戦の経緯」角川新書 を読み終えた。 先日垂水の街に出掛けた際NHK・Eテレ「NHK俳句」のテキストを買いに書店に寄ったところたまたま目について衝動的に買ってしまった。 一度蔵書を処分し…

下関攘夷戦争と「陥穽(かんせい)」

孝明天皇の強い意向を受け徳川幕府十四代将軍・家茂は外国船を打ち払う攘夷実行期日を文久3年(1863)5月10日と奉答、布告した。 当時これを実行出来るとは誰も思ってないなか、唯一長州藩では当日関門海峡を通過する外国船を砲撃、下関攘夷戦争の始ま…

大阪・南御堂(みなみみどう)

昨日は近くに用事があり、大阪のメインストリート・御堂筋の名前の由来になった南御堂に寄ってきた。正式名称は真宗大谷派難波別院で、名前の通り東本願寺の別院で地下鉄本町駅からすぐの至便な位置にある。 親鸞が創始した浄土真宗の歴史は古く一向宗とも呼…

戦国武将 三澤氏物語②三澤氏の誕生

7月7日の続き 三澤氏の出自は信濃国(しなののくに・長野県)で、木曽義仲をルーツとする説もあるらしいが、現在では同国伊那谷(いなだに)に居住していた清和源氏を祖とする飯島氏とされている。 承久(じょうきゅう)3年(1221)後鳥羽上皇と鎌倉幕府・北…

「足利尊氏」

森 茂暁(もり しげあき)著「足利尊氏」角川選書 を読み終えた。 足利尊氏は毀誉褒貶の激しい典型的な人物である。鎌倉幕府を倒した最大の功労者で室町幕府の創始者でもある。 しかし後醍醐天皇に呼応して鎌倉幕府を滅ぼした後、後醍醐天皇と袂を別ち北朝を立…

家康の長男・信康誅殺事件

苦難の末に天下統一を果たした徳川家康の生涯を振り返った場合なんと行っても第一の痛恨事は長男で跡継ぎの信康を妻の築山殿と共に死に追いやったことにあると想像される。 NHK大河ドラマ「どうする家康」ではちょうどこの頃を描いているが、小説的発想でか…

「山名宗全と細川勝元」

小川信(おがわまこと)著「山名宗全と細川勝元」吉川弘文館刊を読み終えた。 この二人の人名を聞いてピンとこなくても「応仁の乱」の対立した東西両軍の総大将と言えば歴史の教科書には必ず出てくるので思い出す人もいるはずである。 この本はその総大将二人…

長い槍の話

古来武将が戦いに勝つことを目指す場合色々なアプローチの仕方があることを歴史が教えているが、兵に持たせる武器をより効果的なものに変えていくのもそのひとつである。 映画「アレキサンダー大王」を観たのでこの際塩野七生さんのアレクサンドロスを読み直…

司馬遼太郎さんの随筆②大名家の非情

司馬遼太郎さんの随筆に昭和41年の毎日新聞に掲載されたとされる「法斎(ほうさい)の話」というのがある。 阿波国(あわのくに・徳島県)蜂須賀家は25万7千石の国主だが、関ヶ原当時当主・家政は西軍に属したが、敢えて嫡子・至鎮(よししげ)は東軍に属し終…

「昭和史をさぐる」

伊藤隆著「昭和史をさぐる」吉川弘文館刊を読み終えた。 著者は日本近現代政治史が専門の歴史学者である。この本は昭和初期の政党政治の時代から、満州事変、五・一五事件、二・二六事件、日中戦争を経て日米開戦、敗戦という昭和の道程を色々な史料に基づい…

映画「アレキサンダー大王」

NHKBSプレミアムシネマで放送された1956年のアメリカ映画「アレキサンダー大王・原題:Alexander The Great」を長い間録画していたがようやく観終えた。 アレキサンダーを演じるのはリチャード・バートンで私にとっては映画「クレオパトラ」でエリザベス…

なぜ薩・長・土・肥なのか/革新活動の必要条件

ふるさとが山口県の厚狭であるところから、つい長州藩や厚狭毛利家などに興味を持ちこのブログにも書いてきたが、やはり長州といえば明治維新を成し遂げる重要な役割を担ったことが第一に語られる歴史がある。 その明治維新に寄与した雄藩として教科書などで…

山陽町史⑤厚狭の庄(荘)園

今まで書いて来たように「大化の改新」以来、国は「班田収授の法」などを通じ公地公民化を進めたが、6年ごとに土地は収公され戸籍により農地が再分配されるために期限が近づくと農地が荒廃したり、人口の増加に対して公田が不足するような事態に直面した。 …

寺島実郎さんと悪人正機説(あくにんしょうきせつ)

寺島実郎さんと言えば日本総合研究所というシンクタンクの会長で大学教授を始め各種の公職を歴任されている政治、経済、国際関係にまたがる論客である。 私は日曜朝の報道番組「サンデーモーニング」は必ず録画して夜に観ることを習慣にしているが、そこに不…

「ミッドウェー海戦 3418人の命を悼む」

ミッドウェー海戦は今から80年以上前の昭和17年(1942)6月、太平洋戦争中の日本海軍とアメリカ合衆国太平洋艦隊の主力機動部隊(空母艦隊)が、アメリカ本土と日本との太平洋中間地点にあるミッドウェー島を巡って激突した戦いである。 1941年12…

「源義経の合戦と戦略・その伝説と実像」

菱沼一憲著「源義経の合戦と戦略・その伝説と実像」角川選書を読み終えた。 この本は今から約840年前に活躍した日本史上のヒーロー・源義経について史料や物語を丹念に追究し軍事面と政治面双方から伝説を廃して実像により近付こうとする試みでありその成…

司馬遼太郎さんの随筆①毛利の秘密儀式

司馬遼太郎さんが書かれた随筆を読み返していくと懐かしく面白いものに色々と突き当たるがこれもそのひとつである。 「毛利の秘密儀式」と題したそれは昭和39年の読売新聞に掲載されたもので、毛利家が関ヶ原の戦いで戦わずして負け中国地方の太守から周防…

「上皇の日本史」②ふるさとの領主・熊谷氏の所領争い

6月11日の続き、 日本特有の制度であった天皇を退位した上皇が行う「院政」のあれこれを解き起こす「上皇の日本史」では、史料を読み解いてその政治の内容や判断が比較的お粗末なもので上皇の政治の限界が見えていることを指摘している。 このことを裏付…

「バラカンが見た村上海賊」

NHKBS1で放送された「バラカンが見た村上海賊」を長い間録画したままにしていたのをようやく再生観終わった。 番組表で見た際は「バラカン」のことが全く意味が分からず「村上海賊」に牽かれて録画しておいたが、バラカンとはロンドン生まれのピーター・バラ…

山陽町史④厚狭ののろし台

現代のような通信手段が無い古い時代は、煙の上げかたやその色によって通信連絡することは世界各地の共通手段であった。 例えば中国・山東半島に煙台(えんだい・烟台)という地名があるが、この起こりは倭寇(わこう・大陸沿岸を荒らした海賊集団)襲撃の際に警…

「上皇の日本史」①地位が先か、人が先か

本郷和人著「上皇の日本史」中公新書ラクレ刊 を読み進めている。 この本の「まえがき」の一部、「地位が先か、人が先か」という章で上皇という日本にしかない地位に関連して、日本特有の地位と人との関わりを論じているのが目から鱗で、ここに書いておくこ…

新選組と長州

このブログを中断していた間、色々な本を読んでいたが、司馬遼太郎さんの新選組小説「燃えよ剣」「新選組血風録」もこの間に読み返した。 幕末を駆け抜けた剣客集団・新選組の行動を振り返って見ると今さらながらではあるが、私のふるさと長州との戦いの歴史…

「世界遺産いただきます 大運河と美食の旅」

★約10日間中断していましたが今日から再開したいと思います。毎日の更新には拘らずボチボチと書いていきたいと思います。どうぞ宜しくお願いします。 ーーーーーー◇ーーーーーー NHKBSプレミアムで放送された「世界遺産いただきます 大運河と美食の旅」を…

御食国(みけつくに)のことなど

先日家族三人で淡路島を訪れたことをこのブログで書いた。その淡路島で一番目にしたのが「国生みの島」というキャッチフレーズで、これはよく知られているようにイザナギ、イザナミによる国生み神話で日本で一番最初に生まれた島は淡路島だとされることに由…

「出雲尼子(あまご)一族」

米原正義著「出雲尼子一族」吉川弘文館刊を読み終えた。 出雲国(いずものくに・島根県)月山・富田城(がっさんとだじょう)を本拠にして中国地方に覇をとなえ、大内氏や毛利氏と存亡をかけて戦国時代を争った尼子氏を研究追跡した書である。 毛利元就の生涯か…

「歴史をうがつ眼」

推理小説作家・松本清張さんの歴史関係の講演や対談を文章化した「歴史をうがつ眼」中央公論新社刊を読み終えた。 「うがつ・穿つ」とは辞書を引くと(穴)をあける。掘る。突き抜けて進む。といった意味で松本清張さんらしい表現のように思われる。 内容は…

「坂の上の雲」⑰日本海海戦

連合艦隊とロシア・バルチック艦隊との決戦・日本海海戦は明治38年5月27日の哨戒艦「信濃丸」の五島列島沖での「敵艦隊203地点(この付近に設定されたNo)に見ゆ。時に午前4時45分」の電信に始まる。 この電信を受信した三等巡洋艦「和泉」は午前6…

「木曽義仲」

下出積與(しもでせきよ)著「木曽義仲」吉川弘文館刊を読み終えた。著者は大学教授などを歴任した日本史の専門家で1998年に亡くなられている。 源頼朝や義経など源氏の正統と目される人物についての研究書は多いが木曽義仲(源義仲)に関しては非常に少なく…