嵐山光三郎著「芭蕉の誘惑/全紀行を追いかける」JTB 刊を読み終えた。
現在住んでいる施設に入居して知った俳句サークルに入会して2年が過ぎたが、お蔭で今まで見向きもしなかった俳句関係の本にも時折目が向くようになった。
これもそのひとつで作家でエッセイストでもある著者が、俳聖といわれる芭蕉の足跡や句碑を自分の足で訪ね、その土地についての芭蕉の紀行文、俳句を思い返し縦横に語るものである。
と言っても発行元がJTB であることのように、途中は現代の旅のセオリー通り、飛行機、新幹線、列車、バス、タクシーあるいは船を駆使しその土地のホテルや旅館に泊まるもので、芭蕉がたどった道中としての描写には欠けるが、その分留まった場所やそこで詠まれたものに熱が入ることになる。
副題に全紀行を追いかけるとあるように、生誕の地である伊賀上野、下向して名を高めた江戸(東京)を初め「野ざらし紀行」「笈(おい)の小文(こぶみ)」「更科(さらしな)紀行」「奥の細道」に記録される各地、更には晩年を過ごした大津、京都、大阪などが芭蕉の時代と現代を往き来して語られる。
「笈の小文」を対象にした章は「笈の小文は禁断の書である」という題が付けられているが、元々これは芭蕉自身が書いた旅行記ではなく、芭蕉が書き残したものを弟子・乙州(おとくに)が編集したもので、本来芭蕉が公表を考えていない自身の私生活の一部が出ているとして著者は詠まれた俳句などを通してあぶり出している。
芭蕉と著者が訪れた地を私はほとんど知らないが、2ヵ所だけは行ったことがあり、本のなかに出てくる芭蕉の句碑を私自身が写真に撮っている。
・「笈の小文」で訪れている神戸須磨浦
蝸牛角ふりわけよ須磨明石
私は現在須磨と明石の間に位置する垂水住んでいるが、この句を見ると各々名勝地である摂津国・須磨と播磨国・明石の間に埋没している当時の垂水が少し分かって来る。
・芭蕉終焉の地 大阪御堂筋南御堂
旅に病んで夢は枯野をかけ廻る
🔘芭蕉が詠んだように比較的易しい言葉を使い、想像が広がるリズム感のある句に近付きたいものだが先は長い。
🔘今日の一句
錆付きし故郷の鉄路身に沁みて
🔘施設の庭、タマスダレ(玉簾)