中断中の独り言・塩野七生「翔ぶが如く」を読む

月刊誌・文藝春秋8月号にイタリア在住の作家・塩野七生さんが『「翔ぶが如く」を読む』と題して、塩野さん連載の巻頭エッセイ「日本人へ」の250回記念として書かれている。

云うまでもなく「翔ぶが如く」は作家・司馬遼太郎さんの、「坂の上の雲」と並ぶ大長編小説で、明治維新の立役者、薩摩の西郷隆盛大久保利通の活動、友情や訣別、西南戦争の展開などを描いたものである。

この「翔ぶ」という不思議な題名は、薩摩武士の剽悍(ひょうかん)な様を表したという説と、中国古代の漢詩詩経」に出てくる鳥と雉の「とぶが如く」とよまれた仲の良い兄弟を西郷と大久保に見立てた、との二説が有る。

塩野さんの「翔ぶが如く」の読み解きは以下のようなことが骨子になっている。

・「竜馬がゆく」の主人公・坂本竜馬は人好きがして明るい。「労」は多かったが若いがゆえに「苦」にはならない若者向きの作品である。

西郷隆盛大久保利通とが主人公になる「翔ぶが如く」は大人向きの作品で二人は権力者になっていた。権力者は第三者の将来を決める力を持ちその責任を自覚することにより「労」と共に「苦」を味わうことになる。

廃藩置県などが断行されたことで、戊辰戦争での勝者であったサムライ達が一挙に失業者になってしまい、彼らに生きる道を見つけてやることが征韓論の始まりで、ここら辺りから西郷の「苦しみ」も始まる。

・これに真っ向から反対したのが大久保で岩倉具視木戸孝允なども同じく失業士族の救済は外征とは別の方法によるべきとした。

・苦しみを解決する方策を拒否された西郷は下野して盟友の大久保に別れを告げ、この先の西南戦争へと繋がることになる。

司馬遼太郎さんも、塩野七生さんも共通して暗殺に倒れる大久保利通をより大きく評価しているが、塩野さんが文中で引用している司馬さんの著作『「明治」という国家』の中に書かれている大久保評の一部を書き留める。

「~~私は今日にいたるまでの日本の制度の基礎は、明治元年から明治十年までにできあがったと思っていますが、それをつくった人間たちについて、それをただ一人の名で、代表せよといわれれば、大久保の名前をあげます。沈着、剛毅、寡黙で一言のむだ口もたたかず、自己と国家を同一化し、四六時ちゅう国家建設のことを考え、他に雑念というものがありませんでした。」

🔘今日の一句

 

書に倦(う)みて欠伸の先の百日紅

 

🔘施設の百日紅、玄関側、

庭の隅

垂水駅近く街路樹の百日紅垂水区周辺ではあちこちに百日紅の街路樹が見られる。名前の通り花の時期が長いことが選ばれる理由かも知れない。