戦国合戦の舞台裏・米や麦の取り合い

図書館で借りてきた盛本昌広著「戦国合戦の舞台裏」洋泉社歴史新書刊  を読み終えた。

この本は表紙の派手さとは異なり、合戦の華々しい戦いの場面から目を転じて、日頃あまり目を向けられることが少ない戦場での戦いに至るまでの準備や陣の構築、退陣などの裏方作業に目を向け、それらの考証を通じて戦いの全体像を見ようとする試みと感じられる。

その中のひとつ戦場に於ける食糧調達とその裏返しである食糧の遮断という課題について。

現代に至るまで戦いの場における食糧の調達は最優先事項のひとつであり、太平洋戦争での日本軍の最大の失敗のひとつインパール作戦などはこの裏付けを持たない無謀な作戦で、多くの日本軍将兵が飢餓などで命を落とすことになった。

私は農家の生まれなので、この本に記述されているなかでも当時の主食である米麦の調達攻防に特に興味があり、何時の世でも辛い被害を受ける農民に同情を禁じ得ないものがある。

・刈田(かりた) ー 敵地に侵入して稲を刈り取る。敵の食糧調達の邪魔をして自軍の食糧に充てる。刈り取ったものは取り放題の場合と、組織的に行われて一度集められその後味方に配分する場合がある。

・麦苗薙捨(むぎなえなぎすて) ー 4月~5月にかけて実った麦は刈り取り、未だ実っていない場合は薙いだ後捨てて敵の収穫を邪魔する。

・苗代薙ぎ(なわしろなぎ) ー 田植えの時期を見計らいその年の稲の収穫を不可能にする。

・打散(うちさん) ー 麦を刈る時期でない場合、鍬(くわ)で一気に麦畑を掘り返し収穫を出来なくする。

・七尺返し ー 敵の田畑を深く徹底的に掘り返し収穫が長期間不可能な状態にする。

こういう固有の言葉が史料に残されていることからも食糧を巡る争いが合戦の帰趨を決める重要な要素であったことがわかる。

こうしたことを行うために武具とは別に、鎌、鋤(すき)、鍬、もっこ(土を入れて運ぶ道具)などが足軽、中間、百姓などによってあらかじめ用意された。

また馬の飼料、大豆、藁、糠などは現地調達が許されていたようで現地での掠奪が常態化する。

🔘何時の時代でも戦争に勝つためには総力戦で何でもやってしまうが、表の華々しさとは全く別の次元で百姓など一般民衆が大きな被害を受けていたことがよく分かり、現代の戦争にも通じる普遍的な課題である。

🔘施設の庭園の隅で他の草木の中でひっそり咲いているツユクサ、ひとつひとつは結構個性がある。

 

【露草は  深き青にて  秘めやかに】