「家康はなぜ乱世の覇者となれたのか」

安部龍太郎著「家康はなぜ乱世の覇者となれたのか/世界史の視点から読み解く戦国時代」NHK出版 刊を読み終えた。

小説家・安部龍太郎さんは安土桃山時代の画家・長谷川等伯を描いた「等伯」や、遣唐使の時代を紐解いた「ふりさけ見れば」などの作品で当代きっての歴史小説家のひとりで、現在地方新聞各紙に大作「家康」を執筆されている。

この本の第一刷が出たのが2022年10月30日で出版社がNHK出版ということから明らかに大河ドラマ「どうする家康」に便乗したものに見えて来るが、内容的に「どうする家康」のストーリーにある荒唐無稽さは全くない。

ここでは作者の真骨頂とも言うべき、最近の歴史研究を随処に取り入れ新たな安部龍太郎の「家康像」を提示しようとしており、この内容が大作「家康」の骨格になっていると思われる。

著者が提示する内容の幾つかの要点は以下の通り。

①戦国時代研究の最も顕著な変化は戦国をグローバルな視点でとらえることで、大航海時代のなかの戦国という見方が必要。特に鉄砲の弾薬の入手とキリスト教イエズス会との関わり。

②家康は軍の旗印に浄土教の用語「厭離穢土欣求浄土(おんりえどごんぐじょうど)」を掲げているが、本来この意味する<穢れた現世を離れて極楽往生の結果行く浄土>をこの世に現出せしめ、この世を誰もが食べて行ける浄土にしようと考えたのではないか

③日本は「重商主義・中央集権」的な指向と「農本主義地方分権」的な指向が絶えず綱引きをしながら歴史が動く。織田信長豊臣秀吉によって進められた「重商主義・中央集権」政策の揺り戻しが家康の「農本主義地方分権」の徳川幕府体制であり、関ヶ原の戦いは両者の路線対立の戦いであった。

④家康が信長・秀吉から引き継いだもので最も重要なものは武装解除兵農分離でありこれが中世から近世に時代が移り変わる際の重要な要素となり、代わりに中世的な自由は制限される。

⑤家康はこれによって戦いの連鎖を止め天下太平という名の「厭離穢土欣求浄土」を作り上げた。

🔘当然ながらここでは家康の政策の正の面のみが取り上げられているが、個人的には例えば世界のなかでの260年間の停滞といった負の側面もあるように感じている。

🔘一日一句

 

夕立が和泉を走り紀の国へ

 

🔘施設の庭、段々秋が近付いているような、チカラシバと思われるのだが。