「物語 アラビアの歴史」

蔀 勇造(しとみ・ゆうぞう)著「物語 アラビアの歴史」中公新書版を読み終えた。と言っても文中に出てくる人名や地名に手こずり、正直言って系統的に頭の中に収まったのは近世以降の内容に他ならない。

著者はアラビア古代史や東西海上交流史が専門で副題が「知られざる3000年の興亡」とあるように紀元前から現代に至るアラビア半島やその周辺部エジプト、イラン・ペルシャ等も時代により含めて概説している。

私自身が今まで持っていたアラビアのイメージは「アラビアンナイト」「イスラム教」「砂漠」「アラビアのロレンス」「王制」「石油と天然ガス」「中東戦争」「アラブの春」と言った断片的なものであったが、固有名詞に戸惑いつつもこの本のお陰で、この地域にも3000年以上に渡る連続的な歴史と成り立ちがあったことが少し理解できたような気がしている。

アラブとは元々定住民から見た民族・種族を問わないラク遊牧民を指し、現在一般的に云われるアラビア語起源の「ベドウィン」と同じような語であり、そのラク遊牧民の土地を「アラビア」と呼んだと言う説明は極めて興味深い。

また紀元前12世紀頃ラクダが家畜化されこれに荷を背負わせる鞍が考案されたことで、砂漠を縦横に越えて行う隊商交易が可能になりアラビアの歴史を画することになったとあるのも新しい知見である。

詳細はさておき、15世紀以降ヨーロッパ人の来航やオスマン・トルコの支配に始まるアラビアの近世は、ヨーロッパ各国の駆け引きや部族英雄の興亡と云った点で全ての事象が現在の独立した諸国家を形造る基礎となっていることが良くわかる。

また現在の繁栄が石油や天然ガスに由来していることは明らかで、将来これらが枯渇や採掘停止になる予測を踏まえ、著者は巻末の「おわりに」に以下のように極めて厳しい見方を書いている。

『来世紀のアラビア半島は、イエメンやオマーンの高地帯を除けば、月世界のような砂漠に都市の廃墟が広がるという、近未来映画で見るような光景を呈しているかもしれない。ともあれ、後から振り返ってみれば、これも長いアラビアの歴史の一つのエピソードにすぎないことは、まちがいのないところである』

 

🔘先日の雪で施設のどなたかが中庭の陰に雪ダルマを作られたが昨日の雨で表情が泣き顔に変わってしまった。

 

【雪達磨笑顔儚(はかな)き雨に泣く】