作家・松本清張

NHKTVに私の大好きな「新日本風土記」という番組があり、日本の各地方の特色、特産物、風俗などが紹介される。
時折、特定の地方にこだわらず特別なテーマについて地方横断的な内容が企画放送される。

今回は「松本清張と鉄道の旅」のテーマで、時刻表と鉄道旅に思い入れがあった清張さん(番組では親しみを込めてこう呼んでいた)と鉄道の話題が色々取り上げられた。

昭和の国民的作家といえば司馬遼太郎さんと松本清張さんが双璧と言え、どちらも出版される著作のほぼ全てがベストセラーやその候補になるほどの人気ぶりで、私もご多分に洩れず両作家についてはその印税に多大な貢献をした一人である。

松本清張さんとの最初の出会いは中学生時代、ふるさと厚狭・山下記念図書館での清張さんの処女作とも言われる短編集「西郷札(さいごうさつ:西南戦争の時西郷軍が発行した軍票)」であったような記憶があり、とにかく深い知識に裏付けされた文章力という印象だった。

ただ司馬遼太郎さんと比べ背景が暗い印象がいつも感じられ、それが清張さんの魅力のひとつだったかもしれない。

この番組で取り上げられた清張さんの代表作の一つが「砂の器」で、父親が罹ったハンセン氏病の秘密を持つ新進の音楽家が、その飛躍を前にして出自の秘密を守るため殺人を犯す。
それを刑事が解き明かし追い詰めていく物語で、刑事は鉄道であちこち捜査に出向くことになる。

この物語で重要な謎解きの一つになるのがいわゆる東北地方で使われるズズー弁で、東北以外でこのズーズー弁に近い言葉が使われているのが奥出雲(島根県)地方でそこの亀嵩(かめだけ)が舞台の一つになる。

番組では亀嵩の土地の人と松本さんとの交流が紹介されている。
昭和34年「砂の器」の原稿の内、亀嵩地方の方言の校正を頼まれた人がたまたま「亀嵩ソロバン」と名がつく高級ソロバンメーカーの経営者で、その縁から清張さんに新製品のソロバンを贈ったところ、その事を「砂の器」のストーリーの一部に使って貰ったと孫に当たる人が話された。

番組でこのエピソードを聞いたので、押し入れの古い文庫本の束を1時間かけて探し廻り、ようやく「砂の器」を見つけて、読み返してみた。
昭和48年発行の「砂の器」文庫本、価格が320円
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確かに後半、主人公の刑事が捜査で訪問した亀嵩のソロバンメーカーの人からソロバンを贈られて、それを相棒に披露する描写が有った。

亀嵩ソロバンの名は半世紀を経ても「砂の器」の私の記憶に残っていたが、このような詳しい部分はやはり完全に記憶が薄れてしまっており、TVを観たことで当時のあれこれの想い出がよみがえって来たような感覚が得られた。

松本清張さんのふるさとへの想い、歴史への想いなどは私の心情とも重なる部分もあり、好奇心を刺激された時間でもあった。

◎図鑑を観てキク科オオキンケイギクのような気がする。
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