映画「家族」

朝日新聞に〈be on Saturday〉 という紙面があり、そのなかに「みちものがたり」という定期連載のコラムで、色々な道や道程をエピソードと共に紹介している。

最新記事は映画「家族」のみちと題して(長崎・伊王島~北海道・中標津)までを「家族」に出演した俳優井川比佐志さんの話を交えて記事にしている

この映画はもう半世紀前位に撮影公開された、山田洋次監督の代表作の一つで、井川さんと倍賞千恵子さんの夫婦役と子供、それに笠智衆さんの父親役が長崎の炭鉱閉山の為、新たな仕事の酪農を目指し家族で旅をする物語で、途中井川さんの弟役、前田吟さんの勤める広島県福山に立ち寄ったり、当時万博が開催れていた大阪に立ち寄ったりするロードムービーで、万博会場のシーンや北九州や福山の工場の様子など、とても身近に感じたのを覚えている。

昨年4月28日のこの日記「倍賞千恵子さん」でも書いたがこの映画の民子役が倍賞さんの数多い作品の中でも一番印象に残っており、旅の途中で赤ん坊を病気でなくした悲しみや、入植地で初めて子牛が誕生したときの歓びのシーン等が今でも目に浮かぶ。

井川さんが開拓地に初めて着いて発した「こりゃえらかとこに来てしもうたばい」は複雑な気持ちが見事に凝縮されている。

半世紀前、私の故郷の近くにあった多くの炭鉱と同じく、日本全国でエネルギー革命が進み、石炭から石油への切り替えによる炭鉱閉山と労働争議があり炭鉱離職者も身近なものだった。

今住んでいる我が家のすぐそばに有る団地も元々は炭鉱離職者が近畿地方で再就職するために建てられた雇用促進事業団が運営したものだが、今ではその事実を知っている人は少ない。

新聞に載っている、この家族がたどった経路の書かれた日本地図を見ながら、その長さに今更ながら驚くと同時に、あの頃持っていた日本人の潜在的な強さとエネルギーに共感を覚える。