映画「用心棒」と関東取締出役(かんとうとりしまりでやく)など

NHKBSで放送された昭和36年(1961)の懐かしい映画「用心棒」を録画再生して観終わった。

観るのは多分2回目と思うが細かい点はあまり憶えておらず最後まで集中して鑑賞出来た気がする。

云わずと知れた黒澤明監督の代表作のひとつで、三船敏郎主演、この映画では主人公の浪人は目の前の桑畑を目にして桑畑三十郎を名乗るが、続編とも云える「椿三十郎」では椿の花を目の前にして椿三十郎と名乗る。

この映画を見たイタリアの映画監督・セルジオ・レオーネがマカロニ・ウエスタンでクリント・イーストウッドを起用してこの映画を翻案した「荒野の用心棒」を撮って大ヒットさせたのは当時有名になった。

やくざの二組が抗争しているため荒れ果ててしまった宿場町にやって来た腕の立つ浪人・桑畑三十郎が、知恵と剣技を駆使して両方の組織を壊滅させる娯楽時代劇だが、細部まで行き届いた目配りと迫真性はさすがに黒澤映画だと思わせるものがある。

以下少し余談になるが、映画の舞台になった宿場町は馬目(うまめ)という架空の設定だが、今回映画を真剣に観る中で以下の三点から監督がおよそどこを想定していたかがわかった気がする。

・二組のやくざの抗争が始まる場面で知らせが入り「八州様のお見廻りだ!」と叫び、これを聞いたやくざは出入りを止めて何事も無かった様に装う。

・宿場町は元々「絹市」が立つ町だったが抗争で市が立たなくなっている。

・宿場町には風が吹きすさんでいる。

「八州様」とは俗に「八州廻り」とも云われるが、正式な幕府の職名は「関東取締出役」という。

江戸時代の関東地方、武蔵(むさし)相模(さがみ)上野(こうずけ)下野(しもつけ)上総(かずさ)下総(しもうさ)安房(あわ)常陸(常陸)の八ヶ国(八州)は将軍家の膝元であり大きな大名が不在で、天領、旗本領、小大名が入り組み治安が悪化、無宿人ややくざが幅を利かせていた。

この為江戸時代後期・文化2年(1805)勘定奉行配下に「関東取締出役」を新たに設け関東八州の広域警察権を与え地元村役人などとと連携して、巡回させた。

八州のなかで最も養蚕業が盛んだった国と言えば上野国(こうずけのくに・群馬県)で桐生(きりゅう)、藤岡、伊勢崎などの絹市が有名である。

また上野国・上州の名物は「かかあ天下にからっ風」である。

江戸時代のやくざを代表する名前が「赤城の山も今夜を限りーー」のセリフで有名な、上州生まれ国定忠治(くにさだちゅうじ)であるように、当時の上州は他に比べ治安が悪く関東取締出役も上州を重点地域にしていたといわれる。(余談の余談だが架空のやくざ・木枯らし紋次郎も上州生まれの設定である)

🔘以上勝手な私見にすぎないが、黒澤監督はこの映画の宿場町を上州に設定したと考えられる。

「関東取締出役」によって一定程度関東の治安回復が成されたようだが、その歴史的研究はまだ始まったばかりである。

🔘今日の一句

 

小走りのお百度急かす初詣

 

🔘施設介護棟の屋上庭園、寒さに負けず咲いているアリッサム