中断中のひとりごと・半藤一利「歴史と人生」

半藤一利さん「歴史と人生」幻冬舎新書、を読み終えた。
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半藤さんは「文藝春秋」編集長等を経て近現代史分野や夏目漱石などに関する著作が多く、特に昭和の日本軍部に対するリアリズムの立場からの痛烈な批判は傾聴に値すると思っている。

最近でも、全61巻が完結した「昭和天皇実録」1万2000ページを保坂正康、御厨貴磯田道史さんと共に徹底検証した「昭和天皇実録の謎を解く」や、秦郁彦、原剛、松本健一戸高一成さんら各方面の軍事史スペシャリストと共に史実を見直した「徹底検証 日清・日露戦争」は、半藤さんが座長役として討議まとめられた、私にとってとても興味深く面白い読み物だった。
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この「歴史と人生」は、半藤さんの80冊以上の著作のなかから「人生捨てたもんじゃないと思わせるこぼれ話等を集めた」とあとがきに書かれている通りのエッセイ集であり190程ある話の内、私が特に気に入った2篇を書き出した。

①あのころ荷風さんは鍋底の石だった。
いろんな人の日記を読みましたけれども、戦時中の荷風の日記「断腸亭日乗」は最高です。・・・・・・山ほどいる日本人の中で、戦争に熱狂せずにあんなに冷静に、あんなに戦争と関係なしに生きた人はいないのではないかと思います。

当時の戦時下の日本はいってみれば沸騰した鍋といっていい。
日本人はみんなカッカとなっていた。

その鍋の底で冷たくもならなければ熱くもならないで一つの石ころがゴロンと転がっている。それが荷風さんですね。

ーーー私のハンドルネーム厚狭吉亭日乗の日乗は、この永井荷風断腸亭日乗」からお借りしたものだ。

藤沢周平の「蝉しぐれ」に泣く。
わたくし(半藤)は「蝉しぐれ」を、拾い読みもふくめて五度は読んでいる。そしてそのたびに、よりそって荷車をひこうとする「ふく」のけなげなさの場面で涙がにじみ、つぎの一行が読めなくなる。・・・・・・

ーーー私(八尾ノ厚狭吉)も「蝉しぐれ」は本で2回、TVで1回、映画で1回。
藩内抗争の余波で、切腹した父の遺骸引き取りに一人で出向いた主人公の少年の、誰も手伝わない荷車を、夏の蝉しぐれの坂道で、幼馴染みの少女「ふく」が黙って押してくれる場面が胸に迫る。

◎ガレージ横に植えた薔薇
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