玉鋼の十二人・奇跡の鉄は生み出せるのか

NHKBSで放送されたドキュメンタリー「玉鋼の十二人・奇跡の鉄を生み出せるのか」を録画して観終わった。

これは日本刀の素材で玉鋼(たまはがね)と呼ばれる鉄を生み出すため古来の製鉄法・「たたら製鉄」の現場にカメラを据え12人の職人の粘土をこねて炉を作り、炉を壊して玉鋼を取り出すまでの三日三晩連続して行われる仕事を、その前後の附帯作業も含めて追いかけたものである。

たたら製鉄」はジブリのアニメ「もののけ姫」の舞台になったことで一般に知られるようになったが、本当の実務を見るのは初めてで、昔ながらのモノづくりの現場での、問題が発生した時の対処方法、職人同士の協力の仕方など非常に面白く観させてもらった。

たたら製鉄」は明治時代官営製鉄所が建設されるまで日本の鉄生産の殆どをまかなっており、原料の砂鉄と木炭が得られ易い中国山地一帯はその主要な産地で、今回の舞台になった日本で唯一復元されているたたら場もその一角島根県奥出雲にある。

玉鋼は炭素含有量が少ない良質の鋼で、加工時の鍛接性に優れ日本刀には極めて有用で、このたたら場も刀剣関係者の尽力と日立金属(現在社名プロテリアル)の協力で復元されたようである。

12人の職人のなかには刀匠を兼ねている方や金属組成の技術者出身の方も居られ、その技術者がたたら製鉄でしか玉鋼が出来ないことや、その玉鋼のことが未だによく解明出来ておらず製鉄の都度試行錯誤だと語っているのが印象的であった。

懐かしい唱歌に「村の鍛冶屋」がありその1番の歌詞に「ふいごの風さえ 息をもつかず」があるが、ふいご(鞴)とは火力を増すため強制的に風を送る装置のことで、たたらとはふいごの大型のもので、人が数人で踏むことで強制的に大量の空気を送り込む。「たたらを踏む」とはこの動作から生じたといわれ、「もののけ姫」でも女性達がこの作業をする場面があった。

たたら製鉄」とはこのたたらが語源であり番組でこの装置が見られると思って楽しみにしていたが、現在の炉はパイプを通して電動で空気を送り込んでいるらしく全く画面に登場して来ず残念であった。

三日三晩の作業の後、炉を壊して取り出すまで玉鋼が実際どれだけ出来ているのか、レベルの高い玉鋼が出来ているのか分からないとされ、緊張感が伝わってきたが今回は前年に比べ品質も良く、量も多く一級品が去年の倍400kgが取れたとのことで12人それぞれの安堵と歓びの表情が印象的であった。

然しこの玉鋼を得るため費やした砂鉄が10トン、燃料の木炭が12トンとは驚きで、12人それぞれの働きと併せて究極のモノづくりに立会わせてもらった気がしている。

🔘誠に余談ながら、このたたら場がある島根県奥出雲にはこのブログは余程縁があるらしく、今まで松本清張さんの「砂の器」の舞台のひとつであったこと、ふるさと厚狭に縁のある戦国武将・三澤氏の本貫地であることなどで触れてきて、今回で3回目になる。

🔘今日の一句

 

子を急かす水鳥の声嗄(しわが)れて

 

🔘健康公園の晩秋