「戦争まで/歴史を決めた交渉と日本の失敗」①

加藤陽子著「戦争まで/歴史を決めた交渉と日本の失敗」朝日出版社刊を読み終えた。

実はこの本を借り出すきっかけは図書館の本棚で著者名を見たからで、2017年菅内閣の折、日本学術会議のメンバー選定に際し会議からの推薦者の内、6名の任命拒否者のひとりで、日本近現代史が専門の東大教授として記憶があり、一度その考えなどを知りたいと思っていた。

私は日頃から物事を見つめる際、思想や党派に偏らず中立的、客観的、実利的に見るのが最も良いと思っている方で、この本全体を通じ読後あまり偏りなく事実に即して考えを語っている印象を受けている。

この本は大手書店・ジュンク堂でのトーク企画で、著者が中高生を相手に「加藤陽子の連続日本近現代史講座」という名前の講義をした内容をまとめたものである。

生徒側からの質問や、著者からの問い掛けに対する生徒側からの答えなども都度載せられており、講義の空気感も分かるようになっている。

生徒は書店からの募集に自ら応募した中学生2人を含む主に高校生の計26名、これに高校教諭4名が加わっているとのことだが、それにしても質問内容や受け答えを見てもその理解力や向上心には脱帽する。

本の副題が長く『かつて日本は、世界から「どちらを選ぶか」と三度問われた。より良き道を選べなかったのはなぜか。日本近現代史の最前線』と有るように、この本(講義)は太平洋戦争へと至る道程のなかで、日本の重大な岐路と認識した三つの対外交渉に於ける選択について、その実状を分析し誤ったことの真因を提示しようとしている。

その三つの交渉とは

満州事変後のリットン調査団報告(国際連盟脱退)

・日独伊三国同盟締結

・太平洋戦争開戦前の日米交渉

でありこの三つに共通しているのは、日本の近代史上において歴史の転換点であっただけでなく、日本と世界が火花を散らすように議論を戦わせ、日本が世界と対峙した問題だったと著者は考えている。

この三項目の内容で新しく学んだことなどは字数の関係から次回に書くが、総括的な前書きのなかで私が従前からの認識を変えざるを得なかったことを挙げると、

戦前の植民地帝国主義に対する認識は、「英仏など世界植民地帝国が自国に有利なブロック経済化を進めた結果、遅れた帝国主義国日本は経済的締め付けを受けやむを得ず武力を用いた」「日本の植民地主義は経済的に見ると全く割に合わないものだった」と言ったところだったが、

「1937年~39にかけてのアジア植民地の貿易における対本国比率」という統計を見ると、英、仏、蘭、米、日のアジア植民地別に見て、日本の植民地(台湾、朝鮮、満州)の方が他に比べ輸出輸入とも本国との間の貿易量が他の国との間の貿易量に比べ最も多くなっている。

すなわち戦前に於ける日本と台湾や朝鮮との関係性は、経済的な側面から見ると英仏とその植民地との関係性より更に密なもので、支配される側からするとより逃げ場の無い緊密さになっていた可能性があり、前記認識を否定するデータになっている。

🔘今日の一句

 

誰植えし海賊島の蜜柑畑

 

🔘昨日の朝、いつもの体操をしようとベランダに出て大阪湾を見ると海面の奥一線が白線を引いたように輝いている。雲の間からの光のいたずらだろうか?