いうまでもなく塩野七生さんはイタリア在住の作家で、大作・「ローマ人の物語」など西洋史に題材を得た歴史エッセイなどで本年度文化勲章を受賞され、また私を西洋史の世界へ導いてくれた人でもある。
「点と線」はこれも殊更いうまでもなく作家・松本清張さんの代表作で、時刻表トリックで一世を風靡した推理小説である。
イタリアではここ数年で、立て続けに司馬遼太郎さんや松本清張さんの作品が伊訳出版されているらしく、これを受けて月刊「文藝春秋」11月号の巻頭随筆に『「点と線」を読む』として掲載されている。
この随筆のなかに塩野さんらしいものの見方が出ており、余計なものは省き、一般の推理小説の読後感とは異なる面白い着眼点を以下に抜き出してみた。
・この小説ではアリバイ作りに時刻表が活用されている。このようなことに時刻表が使われているということは定時定刻に汽車は運行されていたということである。
・この小説は1957~58年にかけて執筆されているとのことであり、日本が敗北した1945年からわずか12年の間に、戦争で壊滅したインフラを犯行のアリバイ作りに活用されれているほどに日本人は復興させたことになる。
・左派的な考えとみられる松本清張さんは、この小説が冒頭から汚職絡みで始まっているように、権力は悪という前提に立たれているようにみえるが、社会生活の基盤であるインフラ整備は国家が行う大事業であり権力が不可欠になる。
・権力は悪用された場合は「悪」になるのであって、良く使われれば「先行投資」という「善」になる。
・1957年(昭和32年)当時の日本は目の前に突き付けられた事を「ヤッタ」。それが66年後の今、目の前に突き付けられているのに「ヤラナイ」というのはどういう訳?
🔘推理小説を読んでも、塩野七生さんらしいものの見方、考え方が微動だにしていないことに感心する。
🔘今日の一句
七草をスマホに尋ね歩く秋
🔘施設の庭の片隅、野路菊のような気がする。