イタリア在住の作家・塩野七生さんは月刊誌・文藝春秋に毎号「日本人へ」と題したエッセイを連載されている。
内容は海外からみた場合の日本人に警鐘を鳴らすものが多いが、大部の「ローマ人の物語」「ギリシャ人の物語」「十字軍物語」などを書かれた作家らしく歴史的な事象をベースに耳の痛いことが容赦なく出てくる。
10月号の『「能力」と「素行」』と題する内容もその一つで、
十三世紀西欧の二大権力者の比較を下敷きにして、
★神聖ローマ帝国皇帝フリードリッヒ二世
・第六次十字軍でオリエントに遠征、率いていた軍勢は全く使わず、イスラム側トップとの粘り強い外交交渉で42年ぶりに聖地・イェルサレムを奪還しヨーロッパからの巡礼を可能にした。
・しかし法王庁はイスラム教徒を一人も殺さないで得た戦果だとして認めなかった。
・素行の面では、11人の女から15人の子を得た。
★フランス王ルイ九世
・第七次第八次の二度十字軍を組織して遠征するが第七次では大敗北して自らも捕虜となり多額の身代金を払って解放され、第八次でも戦況は悪くその心労で死去、第八次十字軍は何も出来ないまま撤退した。
・法王庁は善きキリスト教徒として聖人にし「聖王・ルイ」の名を得た。
・生涯に得た10人の子の母親は王妃一人。
塩野さんには「皇帝フリードリッヒ二世の生涯」という好著があり私も読書の一人で、内容からみても素行はさておき、二大権力者のうち国のリーダーとしての能力に軍配を挙げているのはフリードリッヒ二世であることは明らかである。
塩野さんはこの話を、日本の国政の最高責任者である首相を支持する理由の上位に「人柄が良さそうだから」があがる日本人の世相を皮肉っているわけである。
塩野さんは更に続けて日本の有権者が政治家を選ぶ視点について辛辣な内容を書いているが、あえてそれはここでは触れないことにする。
🔘今日の一句
生きるぞと空を飛びたり蔦かずら
🔘この季節、健康公園のフェンスの外周では蔦が繁茂して不思議な光景を見ることが出来た。外周からフェンスの内にある桜の枝に絡んで掴まえ尚成長しようとする姿である。
枝と蔦との間は垂直方向も水平方向も距離があり、なかなか蔦自身に意志がないと不可能に思われるのだが。