「ふりさけ見れば」と長門国油谷湾(ゆやわん)・久津(くづ)

安部龍太郎さんが日経新聞に連載中の「ふりさけ見れば」もいよいよ終局に近付き阿倍仲麻呂は日本の土を踏むことなく「安禄山の乱」の終焉を見届け唐で死去した。

仲麻呂が日本のスパイとして唐に残った目的は日本の歴史が書かれているとされる歴史書「魏略(ぎりゃく)」を手に入れるためで、「安禄山の乱」のどさくさで手に入れた仲麻呂はそれを吉備真備の唐時代の妻と、楊貴妃の姉で仲麻呂の第二夫人であった二人に託し、日本で右大臣に昇りつめた吉備真備に渡す。

二人は「安禄山の乱」を逃れて長門国(山口県)の日本海に面する油谷湾の久津という港などで長門国の硫黄などを大陸と交易する商売をしている設定に成っている。

火薬の原料になる硫黄は日本の火山や温泉がある地域で取れ当時は大陸などから強い需要があったとされるが、山口県域は現在でも温泉地が多くこの入手が比較的容易であったのだろう。

油谷湾は現在の山口県長門市にあり、天然の良港で地理的な面から古来大陸との貿易が盛んであったと云われ中世以降は日本海航路・北前船や沿岸捕鯨の拠点でもあった。

秀吉の朝鮮半島出兵に従う毛利家軍船もこの付近から船出したと云われている。

安部龍太郎さんがどうして油谷湾を選ばれたのか詳細は不明だが、上記のような歴史に加え久津には楊貴妃伝説があり、「安禄山の乱で殺されたのは身代わりで玄宗皇帝が船を仕立てて逃がして久津に漂着した」というものだが、こういった材料をもとに二人の日本における拠点のひとつを油谷湾久津として設定されたのではないかと勝手に想像している。

何れにせよ自分の愛読する小説のなかで、故郷に近い場所が設定されていることがとても嬉しい。

 

【春雨に歩みつ想う過去未来】

 

🔘春に向けチューリップが芽を出し始めている。