「歴史の教訓・失敗の本質と国家戦略」

兼原信克(かねはらのぶかつ)著「歴史の教訓・失敗の本質と国家戦略」新潮新書 を読み終えた。
著者は国家安全保障会議を立ち上げた外務官僚で2019年に退官された。
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著者は前書きで執筆の狙いの一端をこう書いている。
「日本は何を間違えたのか」自由、平等、民主主義、法の支配といった普遍的な価値観から20世紀の日本の歴史を見た場合どうしても発せざるを得ないのは、「なぜ日本の外交は誤ったのか。19世紀の弱肉強食の世界が20世紀には普遍的価値観に基づく国際秩序へと変貌していくことに、なぜ気付かなかったのか」という問いである。

太平洋戦争の敗戦へと突き進む歴史のプロセスを振り返りながら、日本が道を誤った最大の原因は軍事的な指揮指導権すなわち統帥権が政府から独立してしまい政府の統制が効かなくなる制度上の欠陥に有ったと指摘する。

この統帥権独立問題は過去、作家・司馬遼太郎さん、ジャーナリストで昭和史研究家・半藤一利さんもあらゆる場面で繰り返し指摘しておりリベラルな近代史研究者の共通認識になっている。

この振り返りのなかで著者は山本五十六連合艦隊司令長官が立案実行した「真珠湾攻撃」を評して「戦術的には大成功、戦略的に大失敗」と述べている。

戦術的に大成功は
空母機動部隊を世界で初めて戦略運用しアメリカ太平洋艦隊を壊滅させた。
戦略的大失敗は
当時の米国人は中立的志向が強く欧州への参戦を嫌がっていたがこれをきっかけに米国は連合国として挙国一致になり参戦、国力を総力戦に振り向け連合国勝利の決定打となった。

私もこの見解に賛同する、米国の底辺にある孤立主義をもっと考慮してもよかったのではないかと以前から考えている。
真珠湾攻撃をもっとも喜んだのはイギリスのチャーチルソ連スターリン、中国の蒋介石だという見解はうなずけるものがある。

米国の石油対日禁輸が開戦の直接的引き金といえるが、このときに戦略的忍耐が出来なかったのかが悔やまれる。

尚、この本の前書きにある〈世界の潮流・価値観が変わったのになぜ日本は気がつかなかったのか?〉という問いは現在の日本を取り巻く状況でも「持続可能社会」「ジェンダー」「安全保障」等々充分考えるべき事かもしれない。

◎なかなか花の名前が分かりません
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