映画「飢餓海峡」

NHKBSシネマで「飢餓海峡」が放映され録画して見た。

私は昼の時間はTVを見ないことにしているのだが、なんと言ってもこの映画は3時間強の長編でやむを得ず昼間、例外ながら頑張って見終わった。

実はこの映画、昭和40年に製作されたモノクロ映画だが、どこかの映画館で昔に一度見た覚えがあり(再開発される前の大阪阿倍野の小さな名画座だったのか、何れにせよ半世紀前の頃である)、その時の心にグサリと来た感じが記憶に残っており是非もう一度見たいと思っていた。

これは時代劇の東映らしからぬモノクロの劇映画で、「宮本武蔵」等で有名な内田吐夢監督の作品。
戦後間もない頃、青函連絡船の遭難事故と北海道岩内で起きた放火殺人事件を重ねて、行きがかりから仲間を殺した男が、同情した娼婦に慕われてその為に10年後、娼婦や目撃者を殺す羽目に陥り、最後は青函連絡船上から海峡に身を投げて終る。

主人公を演じていたのは若き日の三国連太郎さんで、現在の「釣りバカ日誌」のスーさん役とは全く違い、貧しい生い立ちから立志伝中の人となりながら、過去の罪から逃れられず更に罪を重ねて遂に破滅する人物を複雑に演じている。

相手役の娼婦を演じていたのが若き日の左幸子さん、貧しく心根が優しい女性の一途な想いが結果的に悲劇に繋がる悲しい役を見事に演じていた。

主人公を追いかける函館の主任刑事が喜劇役者で一世を風靡した伴淳三郎(ばんじゅん)さんでこの映画での存在感はシリアスな面での、半端でないものを感じさせる。
特に捜査を離れた後、自費で舞鶴の捜査に協力する場面で、父親の伴淳さんに批判的な長男が伴さんにお金を渡してやるシーンにはつい涙が出た。

主人公を最後に追い詰めるのが舞鶴署主任刑事の高倉健さん、署長役は藤田進さん、何時も思うのだが藤田進さんが映画に出てくるとその声と併せ重厚さが滲み出てくる。この映画でも議論が出るなかで捜査方針をじっくりと決めていく場面など素晴らしい。

原作は作家の水上勉さんで推理小説や社会派小説と呼ばれる分野での当時のベストセラー作家で、出身風土の越前に依るものか日本海側を舞台にした、比較的暗く悲しい筋が多かった気がする。

中々この映画の良さを語り尽くせない気がするが、一度見た後でもう一度機会有れば見たいと思っていた、私の潜在意識は間違っていなかった事だけは確かである。

畑の雑草に花が咲いた。
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