「倍賞千恵子の現場」

女優で歌手の倍賞千恵子さんが2017年に書かれた「倍賞千恵子の現場」PHP新書 刊を読み終えた。
図書館で本を探していて偶然見つけて借りたものだがこの本に出会えて運が良かったと思っている。

このブログでも何回か触れたような気がするが、ほぼ同年代を生きた女優、歌手の中で私が一番共感を覚える人でファンでもある。

この本は松竹歌劇団・SKDから映画界に入り「庶民派女優」から、歌手としても仕事を全うするなかで、仕事の現場で出会った人々、現場の実際、仕事の悩みやそれを通じて得られた人生の指針などが倍賞さんらしい文体で書き進められており途中感心、感動して不覚にも2~3度涙が出てしまった。

またしばらくマスコミから遠ざかっていたときがありどうしたのかと思っていたがこの本で乳ガンで闘病されていたと初めて知った。

最も多くのページが割かれているのは当然の事ながら渥美清さんと山田洋次監督である。

・「男はつらいよ」の第1作の時、渥美さんは41歳で、倍賞さんは26歳、それから26年間に渡って兄と妹を演じて来たそうで、途中あくまで役柄なのに周りから「さくらさん」と呼ばれることがうとましくなったときもありそれらを乗り越えて今がある。

・倍賞さんが渥美さんを語ったことの一部
「私の渥美さんに対するイメージは「石」でした。山の上に大きなゴツゴツ普通の石があって、その石が何年も何年もかかってゴロゴロ麓に下りてくる。そうして人前に出てきたときには四角いツルンとした石になっていて、そこに細い目とイボをつけたら渥美さん。そばに行くとその石をどうしても触ってみたくなる。触ってみるとじわーっと温かさが伝わってくるーー渥美さんはそんな人でした」

・倍賞さんの出演作170本の内3分の1以上を担当したのが山田洋次監督、この本で初めて知ったのだが歌もヒットした出世作「下町の太陽」も山田監督の作品とのことである。

・倍賞さんが見た山田監督の印象
「もっと、もっと、とずーっと考えている人」
「山田さんはいつも「もっと何かある。まだ違う何かがあるんじゃないか」と頭を絞っているように見えます。」

🔘私は「男はつらいよ」の「さくら」以上に、好きなのが「家族」「故郷」で演じた「民子」役であり、この本の中でもその映画に触れられている。

「家族」で旅の途中で乳飲み子を病気で亡くし、葬式を出した後で崩れ落ちるように泣き続けるシーンや、「故郷」で夫役の井川比佐志さんと「石船」で共に働き、船を倒すように操作して石を降ろすシーンは未だに私の記憶にしっかりと刻まれており、この本の中で倍賞さんが回想される内容が胸に自然に落ちてくる。

【風やさし ひかり未だし 朝九月】


🔘屋上庭園は風が強いので出来るだけ丈を低くして咲いている。