NHKBSで放送された昭和63年(1988)の日本映画「敦煌」を長い間録画したままにしていたがようやく観終えることが出来た。
若い日の佐藤浩市さん、西田敏行さんなどが出演していて、中国映画界の協力を得て現地ロケをしている当時としては破格のスペクタクルシーンもみられる映画である。
敦煌は中国の西域、甘粛省(かんしゅくしょう)にある都市でシルクロードの中継拠点として栄えた歴史を持つ。その近郊にある石窟群は多くの石仏や壁画が遺されて世界遺産に登録されている。
中でも莫高窟(ばっこうくつ)は壁に封じられた中から数万点に及ぶ大量の莫高文献と呼ばれる歴史文書や経典が出てきたことで有名である。
この映画の原作は作家・井上靖の同名小説「敦煌」であり、私は確か中学生時代に読んだ気がするが、映画に併せ垂水図書館から借りだし2回目の読書にチャレンジしてみた。
映画は小さなエピソードは別にして大筋で原作にしたがってストーリー作りがされていて、色々な説がある莫高文献が壁に封じ込まれた由来を、概略以下のような事として扱っている。
・敦煌の大守や寺の僧侶が長期間にわたって収集した文書や経典である。
・11世紀中国は北宋の時代、チベット系タングート族が勃興し中国北西部に西夏(せいか)を建国、敦煌(沙州)も支配下に置いてゆく。
・西夏による貴重な文献の散逸や焼却を恐れた人々が莫高窟の壁に隠した。
歴史学上はその由来には諸説あるらしいが、西域に深い興味があった井上靖らしいロマン溢れるストーリー作りが成され、西域への興味がかき立てられる。
映画では、北宋の科挙(かきょ・官吏登用試験)に失敗し、運命に導かれ西域で傭兵になり文献の保存に活躍する主役を佐藤浩市、西夏軍の漢人傭兵隊長を西田敏行、西夏を建国する李元昊(りげんこう・実在の西夏初代皇帝で西夏文字を作った)に渡瀬恒彦、西夏に滅ぼされるウイグル族の王女を中川安柰などが演じている。
図書館で手に取った「敦煌」は昭和44年(1969)刊行の新潮日本文学集の内の井上靖 集に載せられていて、誠に古さを感じさせ、ついつい中学校の図書室でこういう古びた本を読んでいた懐かしい想い出が浮かんで来てしまった。
特に最終の十一章は小説というより、莫高窟の文献が壁に隠されて後発見されるまでの史伝のようになっている。
この井上靖 集には「敦煌」と同じく西域を扱った小説「楼蘭(ろうらん)」も収録され井上靖の西域への想いを感じる事が出来る。
🔘今日の一句
鍬入れて匂い仄かに春の土