「入道殿下の物語 大鏡」

益田 宗(たかし)著「入道殿下の物語 大鏡吉川弘文館 刊を読み終えた。

著者は東大史料編纂所の所長などを務めた歴史家で、2013年に亡くなられていて、この本は1979年に刊行されたものの復刻版である。

大鏡」は平安時代中期14代にわたる帝(みかど)と、藤原氏一族の事績を人物中心の紀伝体でまとめたもので、長命な老人二人が語り合いそれを筆者が批評記録していくかたちで、藤原氏全盛の朝廷の176年間が描かれる。

現在放送されているNHK大河ドラマ「光る君へ」で柄本佑さんが演じている藤原道長(と言っても私は今回の大河ドラマは全く視ていないのだが)の時代、藤原氏は絶頂期を迎えるが、そこに至る権力の推移を物語のなかで確認していくことになる。

この本は古典・「大鏡」をベースにして全体を三つに分け

・帝の物語-代々の天皇のエピソード

・大臣(おとど)の物語ー藤原一門など歴代実力者の物語

・入道殿下の物語ー藤原道長の一代記

平易な語り言葉で記述し「大鏡」の時代について現代の若者の理解を進めようとしている。

特に著者が現代の父系制社会に生きる若者に努めて理解を得ようとしているのが、当時の母系制社会の在り方である。

奈良時代平安時代には、財産などが母から娘へ、娘からその娘の生んだ女の子ヘと、母方の血統をたどって伝えられる社会が形成されていたことが分かり始めている。

こういう社会では女性は両親の屋敷で婿を迎え、赤ちゃんが生まれると女性の両親が中心となって孫の赤ちゃんを育てる。こうして育った子供は自然の成り行きで母親や母方の両親を頼りにすることになる。

歴代の藤原氏天皇や皇太子、皇太子候補のそばに娘を送り込む事に依り外戚となり、当時の社会制度下では最も近しい親族の立場を確保して、権力を維持していくことになる。

最も近しい親族の立場を得ると、公的な官位が累進すると共に公的な立場を超えて天皇へ直接接近出来、その事が藤原氏一族の権力を盤石なものにしていく。

また物語のなかで、如何なる権力者と言えどもも肉親、親族、自分自身の老、病、死や悪霊などの災いに呻吟する様を見せていて、大いに考えさせられるところがある。

🔘今日の一句

 

蜩(ひぐらし)はそのひぐらしを呵呵と鳴く

 

🔘介護棟屋上庭園のランタナ、蜂や蝶の仲間が蜜を採りに。