引っ越し後本は図書館で借りることを基本にしているが、著者は私が注目している歴史家の一人で新聞の書評欄でこの新刊が出たことを見て、これは買うしかないなと思って書店に注文して手に入れた。
著者は現在の大河ドラマ「どうする家康」の時代考証を担当している中世史の専門家で特に甲斐国・武田家の著作には定評がある。
時期的に大河ドラマに便乗した本と受け取られかねないが決してそうではなくすべての著述内容に裏付けの史料や文献を挙げ、状況証拠のみの場合はそれをはっきりして後考を待つという姿勢が潔いが、それだけに難解な部分もあり読み進むのに時間を要する。
欲を言えばもう少し地図を多用して空間や時間の推移を分かりやすいようにして欲しかった気がする。
内容は家康と信玄の敵対から友好、そして関係悪化から本格的衝突に至る息詰まる駆け引きや出来事の連続を周辺の大勢力、織田信長、上杉謙信、今川氏真、北条氏康、氏政らの動向を絡めて丹念に追跡したものである。
特に家康生涯の中でも最大の敗戦といわれる信玄、家康の激突・三方ケ原(みかたがはら)の戦いで、圧倒的な兵力差があるなかで家康が信玄に挑んだのは従来戦国大名としての面子(めんつ)を守るためといわれていたが史料を示した上で、「居城の浜松の補給線が遮断され自壊してしまう」ことを恐れたという説明に感銘を受けた。
この危機を家康は信玄の死によって切り抜けることになるが人間の運命というものを考えざるを得ない結末である。
🔘健康公園の桜並木は冬ざれの姿で裸の状態が続いているが、近寄ってよく見ると枝の先には芽吹きが始まっている。
【孫がもう独り立つらし木ノ芽時(このめどき)】