岩波書店のあれこれ

岩波書店の名前は私たちの若い時代にひかり輝いていた。
数ある出版社の中で大衆化路線とも云うべき講談社や小学舘、集英社などとは対極にあり、その本は日本の文化事業を牽引するような自負を感じたものである。

「岩波講座・世界歴史」といった各種の講座シリーズ、夏目漱石森鴎外などの全集、文庫本の原型になった「岩波文庫」新書版を定着させた「岩波新書」等々やその本に付けられた「ミレーの種まく人」の図柄で出版界をリードしてきた印象がある。

引っ越すに当たって若い頃に買いためた本を処分しようと古本屋に来てもらったが、開口一番に言われたのが、
「今では岩波書店の古書は例外を除いて全く売れないので引き取れない」だった。
インターネットの普及で出版業界が苦しい状況は理解していたが、その影響はコミックなどには少なく学術書のような硬派のものには顕著に表れているのが身に沁みてよく分かった。

引っ越して来た施設の図書室には雑誌「文藝春秋」のバックナンバーが揃っており順次借り出しているが、その2月号に2021年6月に岩波書店の新しい社長になった坂本政謙(まさのり)氏の「創業の精神」と題した寄稿文が載っている。

110年前に岩波茂雄によって創業された書店の沿革、現在の赤裸々な出版不況の現状を踏まえ「看板」が培って来たものを裏切ることなく、また「看板」を降ろさないために変化や刷新が必要なことを訴えられている。

岩波書店を含む硬派の出版業が正念場を迎えていることは間違いないが、このような本離れが今後の日本の将来にどのような影響があるのか、簡単には云えるものではないが、少なくともマイナスのファクターとして考えられるのは間違いないと思っている。

🔘歩きの公園で懐かしいタンポポの綿毛が見られるようになってきた。