「室町は今日もハードボイルド」

清水克行著「室町は今日もハードボイルドーー日本中世のアナーキーな世界」新潮社刊 を読み終えた。
f:id:kfujiiasa:20220120133445j:plain

表紙の絵も人目を引くような強烈なインパクトで、オマケにこの本のキャッチコピーは以下の通り好奇心をあおる内容で、とても学術的な本とは思えない。

『「日本人は勤勉でおとなしい」は本当か? 僧侶は武士を呪い殺して快哉を叫ぶ。農民は土地を巡って暗殺や政界工作に飛び回る。浮気された妻は女友達に集合をかけて後妻を襲撃――。数々の仰天エピソードが語る中世日本人は、凶暴でアナーキーだった! 私たちが思い描く「日本人像」を根底から覆す、驚愕の日本史エッセイ。』

しかし著者は現在明治大学教授で中世史専攻の歴史学者、書かれているのは地域に遺こる古文書を読み解き、中世室町時代の世情の実態を明らかにしようとするもので、その内容は事実に基づくものである。

その事実が時にセンセーショナルものになってしまうのは当時の価値観、ルール、常識、道徳などが現代と違うからであって現代のものの見方で中世を見てはならないと著者はしきりに述べている。

これは私も同感で、私は素人ながら江戸時代の民政記録を少しずつ読もうとしているが、時代は違えど、この考え方を変えてはいけないと実感している。

この本の中に出てくる実例をひとつ、

『仲間を集め琵琶湖の船上で強盗を働き少年を含む16人を皆殺しにした男が、身代わりに自決した父親の事を聞き、世の無常を知って遍歴、最期に浄土真宗に帰依する。

浄土真宗には悪人正機(自力で功徳が積めない悪人こそ救われる)の思想があり、父親の死には無常を感じても自分が手を下した16人には無常を感じないこの男のような人物も受け入れられた。

浄土真宗本願寺はこうした人々を含めて組織化、戦国大名織田信長を震撼させた一向一揆の強さの秘密の一端がこのようなところにもある。』

悪人正機説(あくにんしょうきせつ)の解釈は云わば浄土真宗の核心部分でありなかなか難しいが、この実例から宗門や一向一揆の功利的な一断面を解釈した著者の見方には確かにうなずける部分がある。

◎これはガザニアの仲間のような気がする。
f:id:kfujiiasa:20220120133236j:plain
f:id:kfujiiasa:20220120133300j:plain