歌謡曲「潮来笠(いたこがさ)」

映画や演劇で股旅ものと言われるジャンルがある。
流れ者や無宿人のヤクザが出てきて大抵義理人情と活劇がセットになっている。

謡曲にも同じジャンルがあり昨今の音楽事情の中ではどちらかというと片隅に追いやられているような気がする。

若い人から石とブーイングが飛んで来そうで、余り大きな声では言えないがいわゆる股旅演歌、「勘太郎月夜唄」「一本刀土俵入り」「大利根月夜」等は音痴の私でも比較的唄いやすく聞きやすく出来ており、好きな範疇(はんちゅう)になる。

最近歌手の橋幸夫さんが引退されるとのニュースが流れたが、このニュースを聞いて懐かしくなり半世紀以上前のデビュー曲「潮来笠」をYouTubeで検索し、じっくり聴いてみた。
若い時の橋さんが唄っていただけあって股旅演歌の中ではとても明るい調子で大ヒットした訳がよく分かる。

余り一般には知られていないが映画、演劇、歌謡曲の股旅ものの原作は大正昭和期に活躍した作家・長谷川伸(はせがわしん)氏にルーツがあるものが極めて多く大衆文学の巨匠の一人である。

潮来笠」の主人公・伊太郎も長谷川伸氏の作品の中にあるのではと思い、朝日新聞社から刊行された手持ちの全集全16巻を調べたところ同名の「人斬り伊太郎」は出てきたが人違いで、「潮来の伊太郎」はどうやら作詞者・佐伯孝雄さんの創作らしい。

長谷川伸全集第3巻
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潮来笠3番
♪︎♪︎旅空夜空で 今さら知った
女の胸の底の底
ここは関宿(せきやど) 大利根川に
人にかくして 流す花
だってよー あの娘川下 潮来笠♪︎♪︎

今から半世紀も前、仕事で東京近郊を訪れた際、埼玉と千葉の県境にある利根川沿いの町・関宿を通った事がある。
その時土地の方に「あの潮来笠に出てくる関宿です」と言われた記憶が今になって懐かしく甦ってきた。

利根川上流の関宿から、川下の潮来に居るはずの会えない好きな娘に向けてそっと花を流すーーー物語性のある、映画なら名場面になりそうな詞である。

とここまで書いてきたがこの「潮来笠」、まだ一度もカラオケで唄ったことがない。この先唄う機会が巡ってくるのだろうか。

◎今朝歩いて見ると近くの田んぼもいよいよ収穫が近い
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