若き日の山と老いての山

日経新聞の今週の詩歌教養欄に掲載された読者の「歌壇」で本当に久しぶりに心に響く投稿短歌に出逢った。
この欄は毎週目を通すことにしているが、自分自身では短歌俳句は詠まないせいか、なかなかハッとするような歌や句に巡り会うことは少ない。

イチオシ短歌 三枝昻之(さいぐさたかゆき・歌人)選

〈若き日の朝な夕なの伊吹山老いて遥かに秩父の山地〉
  ーーー上尾(あげお) 岩田紀生さん作

 
上尾と書かれているので埼玉県上尾市にお住まいの方だと思われるが、そこからだと概ね西側にけわしい秩父(ちちぶ)の山々を見ておられるはずである。
伊吹山(いぶきやま)は琵琶湖の北方にそびえる山で、関ヶ原の後背地に当たる。関ヶ原の戦いに敗れた石田三成がこのけわしい山を目指して逃亡したことでもよく知られる。

作者は近江国滋賀県の生まれだろうか、今は武蔵国埼玉県に住まわれているらしい。

私のふるさとの村を藩政時代に給領地としていたのが、「武士中の武士」と源頼朝に評された熊谷直実を祖とする熊谷家だが、その本貫地(ほんがんち・苗字の由来の地)がこの作者が現在住まわれている上尾に程近い武蔵の熊谷である。熊谷一族も作者と同じく秩父山地を朝夕に眺めて暮らしたに違いない。

この作者の感覚に照らして言うと、私が若い日に毎日眺めたのはこのブログでも何回か取り上げたことのある、ふるさと厚狭(山口県山陽小野田市)の象徴・松嶽山(まつたけさん)である。
昨年秋、帰省時に撮った松嶽山
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また現在住んでいる大阪八尾市で毎日の歩きで季節を感じるのが南東方向にそびえる葛城・金剛山系と言える。
今朝遥かに見た左側が葛城山、右が金剛山
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人は昔から山を仰ぎ見て暮らし信仰の対象でもあった。
誰にも心に残る山があると思うが、若いときからずっと同じ山を見続ける人も居れば、年齢とともに複数の心の山を持つことになった人もいて、感じることも様々なのだろう。

松嶽山と金剛山にはあと一度ずつ登っておきたいと思っているのだが。

歌の作者のことは全く知らないが、いつか何処かですれ違ったような気がしないでもない。

◎夏を感じてしまうハイビスカス
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