「根に帰る落ち葉は」

南木佳士(なぎけいし)著「根に帰る落ち葉は」田畑書店刊を読み終えた。
著者は長野県佐久市在住の医師で芥川賞受賞作家、私とほぼ同世代。思いつくまま、依頼されるまま書いたエッセイを取りまとめたもので去年、庭の落ち葉を片付ける頃出版したことにも題名の由来があるらしい。
「落葉帰根」という題と同じ意味の言葉が、エッセイのなかで度々出てくるが、
例えばそのあとに「おまえも、もう根に帰ったらどうだいと、葉っぱたちに諭されてなんだかうれしくなり、さらに歩を速めた」と続く。

この本は著者の希望通り、文庫本サイズの小ぶりながらハードカバーの、あまり無い造りで、出版社も古い知り合いが営む小さな会社とのことである。
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実は読む前まで全く知らず、途中まで読んで分かったのだが、著者は映画・「阿弥陀堂だより」の原作者だった。
阿弥陀堂だより」は樋口可南子さん演じる精神的に疲れた都会の女性医師が寺尾聰さんが演じる夫の故郷過疎の村の医師として赴任、そこの阿弥陀堂の堂守り北林谷栄さんや周囲の人達との交流を通じて快復を果たすストーリーで、見終わってホッとするような映画だった。
監督が「雨あがる」の小泉堯監督でこの監督でこその映画でもある。

前置きの方が長くなってしまったが、本の中でいちばん私の心に残った共感の文章は「誕生日」という題名の最後の部分、

「人生の得失は常に等価なのだろうが、高齢化とともに、諦念と引き換えに得たもののありがたさが身に沁みる。我が身三歳の折りに肺結核で逝った母や、祖母の仏壇にじゃがいもの天ぷらを供え、なにげなく合掌したら、ふいに涙が湧いた。感情失禁は老化の証だが、もうそれを楜塗する気はない」

家の周りで育てている花
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