加藤登紀子さんサハリンへの旅

NHK総合TVに「目撃・にっぽん」という30分のドキュメンタリー番組があり、目につく度に予約録画するのだが、時折本当に良かったと思えるような中身に出くわす事があり、私にとって番組表を見るときの要注目番組になっている。

先日の放送は、歌手の加藤登紀子さんが昨年6月ロシア領サハリン州(日本名:樺太)を訪ねコンサートを開いたことを追跡した「故郷と祖国~加藤登紀子サハリンへの旅~」と題したドキュメンタリ-であった。
このコンサートは加藤さんの発案とのことで、訪問の目的の一つが残留日本人生き残りの方にお会いする事だと明かされた。

番組の中で初めて知ったが、加藤さん自身も旧満州ハルビンからの引き揚げ者とのことで、紙一重で残留せざるを得なかった人に寄り添う気持ちや、帰国して一家でロシア料理店を営んだことから来るロシア人に対する親近感を本人が語った。

サハリンは江戸時代の間宮林蔵による探検以来、ロシアと日本の係争の地であり1875年、千島列島・樺太交換条約でロシアに帰属、日露戦争後のポーツマス条約で南半分が日本領となり約40万の日本人が定住したものの太平洋戦争末期ソ連軍が南樺太に侵攻、日本人の大部分は帰国出来たものの残された少数の在留邦人が出た。

加藤さんは、12歳でやむを得ず取り残された女性と面会するが、今は現地で家族と暮らす85歳の女性は、庭に植えた桜と日本語で対話することで苦しさに耐えた事や、兄の背中で聞いたという歌「人生の並木道」を覚えており、苦しいときに日本の歌を唄えば気持ちが楽になると語る。

この女性が、真剣な面持ちで加藤さんに尋ねた、
「私が死んだら日本の魂になりたいのですが日本の魂になれるでしょうか?」
「日本人だから日本の魂に入りたいです。」
加藤さんの困惑する顔が浮かぶ、加藤さんは国境など無いことを志向する気持ちから「この問いを受け止める事は出来なかったが大切にしたい。」と後で語っていた。

しかしこの問いにはどう答えるのがいいのだろうか、私にもよくわからない。

コンサートは多くのロシア人や、あの女性も含む在留邦人達も加わった、唱歌「故郷」♪♪うさぎ追いしかの山、小鮒釣りしかの川~~♪♪の大合唱で終わった。恥ずかしながら涙が出た。

複雑な気持ちが交錯し残ったが、良い番組に出会った事は間違いない。最後にテロップが流れたが加藤さんが面会した女性は今年2月現地で亡くなり現地に埋葬されたとのことである。