峠(とうげ・とう・たお)

峠は山道の頂点にありこの先に幸があるのか災いがあるのか未知の事を思い浮かべる場所でもある。
子供の頃に母親の実家を何回も訪れていたがバスを降りて細い山道を長く歩き、実家まであとひと息の名もない峠に立つ3本松の姿が遠い記憶の中にある。

私の郷里山口県厚狭は三方が山に囲まれ南側のみ海に向かって開ける地形で三方にはそれぞれに峠があった。
東の舟木(ふなき)に越える西見峠、西の埴生(はぶ)に越えていく談合峠、北へは小さな温泉があった湯ノ峠、石束(いしずか)と柳瀬(やなせ)間に越峠等が思い浮かぶ。

ところが記憶を紐解くと、どれもこれ等を「とうげ」とは呼んでいなかった。順番に読むと、「にしみがたお」、「だんこうとう(どう)」、「ゆのとう」、「こえとう」である。
現在は各々が峠であると認識しているが当時はそう言うことでなく全体を「にしみがたお」と言う地名と思っていた。

最近この「たお(垰)」や「とう」という峠を指す呼び方が中国地方を中心に日本に広くあることを知って驚いた。
更に峠(とうげ)の語源はむしろ「垰(たお)」や「とう」にあるかもしれないとのことである。
子供の頃の記憶と新しい知識が結び付くと本当に嬉しい。

ところで峠繋がりで、司馬遼太郎さんが幕末の傑物、越後長岡藩河井継之助を描いた「峠」が役所広司さん主演で映画化され今年公開されるらしい。

キムヨンジャさんが唄う朝鮮民謡アリランも、峠を題材にした何とも懐かしい響きのメロディーである。